【コロナ渦で失業したので、ライブ配信を毎日平均6時間やりまくってみた8ヶ月のこと】連載記事vol.6

 前回の【vol.5】はこちら。

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「実はスピリチュアルとかオカルト系も好きなんです!京都に住んでいたころは神社巡りしまくってました!」

 

酒の勢いも相まって、気が付けば私は興奮気味にまくしたてていた。

 

「深夜の神社に行くのが特に好きで。昼間と空気が全く変わるじゃないですか。ちょっとおどろおどろしい雰囲気もありつつ、神聖さも感じつつみたいな。あれが癖になっちゃうんですよね。」

「え!何やってんの!?変なの憑いてくるからやめな!」

「え、まじすか!?」

「夜の神社は神様がいなくなってしまうから不浄な場所になっちゃうの。低級な動物霊とかがやってくるから絶対に行かないほうがいい!」

「うわあ、勉強になります!」

「マジで気を付けな。」

 

智絵里さんは九州に住んでいる30代前半の女性占い師だった。プロフィールには【霊視・スピリチュアル・占い】と記載されていた。過疎が進むこの配信にそのようなジャンルの方が来てくれるなんて!とてもテンションが上がった。

私自身パワーストーンを集めていたり、この世の者ではない何かを見てしまったりということがあるので、そのような方と交流出来る機会に思わず胸が高鳴ったのだった。

姉後肌ムンムンでアドバイスをしてくれる彼女に、私はかなり懐いていた。困っていること、悩んでいること、多くの相談をした。

「X」の最重要要素である集客を手助けしてくれたのも彼女であった。

 

「せっかくイケメンなのに、全然人来ないねー。」

「お世辞でも嬉しいです。ま、集客に苦戦はしてますが・・・笑。」

「相談に乗ったら、ちゃんとアイテム貰ってる?」

「うーん…。正直、アイテム投げてって言いづらくて。チャンネル登録者増やすために始めたから、あんまり興味が無いっていうか・・・。」

「はあ、しょうがないなー!じゃあとりあえず私が一回投げてあげるわ。」

 

そう言うと智絵里さんはすぐに100円相当のアイテムを放った。虹色に光る無数のシャボン玉が画面を下から上へと通り過ぎてゆく。過疎化にあえぐ殺風景な私の配信は、一瞬の煌めきを見せた。

突然の投げ銭に驚き、慌てて感謝の気持ちを述べる。だが、その言葉は無視され、代わりにアイテム効果の解説を述べた長文コメントが返ってきた。

 

「コメント数やアイテム数によって応援ポイントっていうのが上がっていくの。言い換えれば、これは盛り上がり度ね。盛り上がり度が高いほど、上位おすすめライバーに表示されやすくなって、初見リスナーさんが来やすくなるのよ。そして、それにダントツで影響を与えるのがアイテム。だから、基本的にはアイテムを貰わないと人はやってこないの。」

 

「乾杯アイテム」を貰いまくった後に、どういうわけか新規リスナーがわんさかやってきた、たかちゃんの異様な配信光景を思い出してハッとした。(連載vol.5を参照)

100円相当のアイテムが次々と飛んだおかげで急激に応援ポイントが上がり、彼女は上位におすすめ表示された。そしてそれを見たリスナーたちは、「お、菜々緒似の綺麗なお姉ちゃんじゃん。少し覗いてみようかな。」となり、続々と入室し始めたということだ。

なるほど、謎が解けた。集客のポイントはここにあったわけだ。

 

「どうも!こんにちはー!」

もうご新規さんがやってきた。FUMIさんという女性だ。

「やったね、新しいリスナーさん来たじゃん!」

「ありがとうございます!智絵里さんのおかげです!」

「じゃあ、あたしは帰るねー。今日も頑張ってー!」

そう言うと、智絵里さんは颯爽と配信から出ていった。なんてありがたい人なんだろう。彼女もライバーとして活動しているらしいので今度お礼をしに行こう。無課金だから、投げれるのも少額アイテムで申し訳ないのだけれど。

 

「FUMIさん、初めまして。恋愛心理学アルチューバーの成生です。もし、恋愛に関するお悩みありましたら、どうぞご相談していってください。」

 さあ、せっかく頂いた機会だ。初見リスナーさんに全力で対応しよう。普段より大きい額のアイテムを得たおかげで、その日はやる気に満ちあふれた配信が出来たと思う。

 

 

                            ***

 

 

大きいアイテムを投げてもらう快感は凄まじく、小さいころにお小遣いをもらった時のような喜びを私に与えてくれた。1円や5円、時折10円ほどのものはちょこちょこ貰っていたが、正直それでは心は満たされなかった。自分と同じような無課金リスナーが多かったからこればかりは仕方ないのだが、一度味わってしまうとまた求めたくなるのが哀しき人の性である。智絵里さんが配信に来てくれるたびに、100円以上のアイテムを期待してしまう自分がいた。実際彼女は誰よりもアイテムを投げてくれた。私は次第に彼女の舎弟のようなキャラクターを演じるようになり、言うことを何でも聞き入れるようになった。

 

scene1

パワーストーンのブレスレット、ちゃんと浄化してる?」

「水晶の上に乗っけて保管してます。」

「見せて。」

私は手のひらにちょこんと収まるほどの小さなクラスター水晶を画面に映した。

「それじゃ小さすぎて効果薄いよ!いい?ちゃんと月光浴させなさい!新月と満月のときに月明かりに照らしてね!」

 

 

scene2

プロフィール画像、変えたほうがいいよ。」

「え、割と写りいいのつかってるんですけど・・・。」

「インテリ臭がしないの。そうだ、メガネかけて撮り直そ!」

別にインテリ目指してるわけじゃないんだけどな、という言葉は飲み込んだ。

「心理学でしょ、メンタリストDaiGoみたいにインテリ感出したほうがいいから!今のままじゃよくないよ!すぐ変えよう!」

 

 

仕事もなく飲み会もなく、ただ家にこもりきりの寂しい自粛生活を送る私にとって、智絵里さんの言葉は常に新鮮だった。説教じみたアドバイスはきっと、霊視などによるスピリチュアル的なものなのだろう。私は智絵里さんにがっつりと傾倒していた。恋愛相談に乗ったあとの疲れや、緊急事態宣言下の憂鬱、彼女はそれらをすべて吹き飛ばしてくれる。今から思えば、恋に似た感情を若干抱いていたのかもしれない。配信終了後には毎日のようにTwitterのDMでやり取りをした。ハイハイ、と軽くあしらわれることも多かったけれど、なんだかんだで毎回配信も来てくれるし、それなりに好いてくれていると自覚していた。

 

 

そんな彼女があんなにも簡単にいなくなってしまうなんて、その時は露ほども思っていなかった。

 

【vol.7】へ続く。



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【コロナ渦で失業したので、「ライブ配信」を毎日平均6時間やりまくってみた8か月のこと】連載vol.5

 前回の【vol.4】はこちら。

 

全然配信に人が来ねぇ。

それが1番の悩みだった。

人が集まらなければ新規リスナーの恋愛相談もなく、Youtubeの宣伝も出来ない。私は発信者だから、当然のごとく自己顕示欲も満たされたい。それがスムーズにいかないことに対するフラストレーションも感じていた。

他のライバーたちはいったいどのようにリスナーを獲得しているのか。もちろん、長く続ければ続けるほどリスナーは増えていくのであう。だが、私と同じ時期に始めて、すでにそこそこの人気を得ている方々もいる。

彼らはどんなコンテンツを武器にリスナーとコミュニケーションを深め、人を集めているのだろうか。勉強と研究のため、配信時間の合間にリスナーとして、他の部屋を行脚してみることにした。

ヒントはきっと転がっているはず。

 

 

           ***

 

 

たかちゃんは、黒髪ロングヘアーがよく似合う、菜々緒似の綺麗なお姉さんだった。

「飲みながら配信してます☆」とプロフィールに書いてあったので、同じような配信スタイルかもしれないと思い、入室してみた次第である。

 

「どうもおー。たかちゃんでーす!!よろしくおねがいしまーす!」

 

入るやいなや、陽気な挨拶で迎えてくれた。酔っているのだろうか、なんだかご機嫌な様子だ。若干呂律も回っていない。机の上には宝焼酎の紙パックとお茶のペットボトル、そしてぎっしり氷が詰まったグラスが置かれている。

「初めまして!成生と申します!「X」はまだ始めたばかりで、あまりよく分かっていません・・・。新参者ですが宜しくお願いします。」

「成生さん、こちらこそよろしくですー!あたしもまだ始めて1週間くらいなんで、一緒に頑張りましょー。テキトーにお酒ガンガン飲んでるだけですけどねー。」

けらけら笑いながら、たかちゃんはグラスに手を伸ばす。

 

10人ほどのリスナーがそこにはいた。その時のたかちゃんのフォロワーは100人ほどだったので、初見がいなかった場合、10分の1が来ていることになる。これはすごい出席率だ。1週間でこの数字なら5月にはめちゃめちゃ増えているのだろう。

 

「たかちゃん、飲みすぎw」

「何時から飲んでるのー?」

「今日も可愛いね!」

 

様々なコメントが画面に次々と表示されていく。それらをひとつひとつ読み上げながら、返答をしていくたかちゃん。彼女とお喋りしたいからか、みんなじゃんじゃんコメントを投稿する。しかし、ほろ酔い状態のふわふわした口調は、酒が進みさらにふわふわ。コメント消化スピードはだんだん遅くなっていく。案の定、コメント欄が渋滞してきた。この様子だと私のコメントを認知してもらえるのはまだまだ先になるだろう。まぁ、時間はあるのだ。酔っぱらい美女を拝みながら、じっくり待とう。

 

そんな時だった。

 

「よーし今日も飲んじゃうぞー!明日は休みだー!みんなで乾杯したーい!」

突如たかちゃんはコメントを読み上げるのをやめ、甘えた笑顔を我々に振り撒いてきた。ああ、綺麗さと可愛さが程よく融合してるなぁ・・・なんて間抜けに見とれていると、いきなり、画面いっぱいに「かんぱ~い」のアイテムエフェクトが表示され、たかちゃんの胸元が華やかに彩られたのだった。100円ほどのアイテムだからか、いつも私が貰っている1円や10円相当のものよりも派手な演出である。

わああああ!っと嬉しそうに手を叩いたたかちゃんは、「Aさんありがとうー!飲みまーす!せーの、グイ、グイ、グイ・・・」と、セルフでコールをし始め、机の上にあった緑茶割りを一気に飲み干した。口元をティッシュでぬぐい、満足げな表情を浮かべながら「ああん、まだまだ飲んじゃうよー」とさらにリスナーを煽っていく。再びまた乾杯の音頭が始まる。きらびやかなエフェクトが止まらない。

おお、なんだかこのお姉さんすごいぞ。部屋で1人、スマホに向かって一気飲みを敢行するというのは、よくよく考えてみたら妙な行為である。圧倒的なパフォーマンスはもちろんだが、それを平気でやってのける度胸にも感銘を受けた。アイテムをあおり、投げ銭をしっかり頂戴していく。その手口の巧妙さにも脱帽せざるを得なかった。

 

気が付けば10人ほどだったリスナーの数は、1時間で15人ほどに膨れ上がっていた。途中で抜けた人も数名いたため、トータルで30人ほど来ていたと思う。しかも、約半数が新規のリスナーだった。6時間配信して4、5人しかやってこない私の配信とは雲泥の差である。

そりゃあ美女がハイテンションでお酒飲んでたら人気になるよね、というのが率直な感想だった。勉強のためにこの配信に訪れていた私も、気が付けば彼女の虜になっていたのだから、彼女の作戦は相当なものだ。美女と酒が飲めない自粛期間ゆえ、ライブ配信でそういった気分を味わう。間違いない、需要はある。

 

ただ、そこでひとつの疑問が生まれた。

それは、数多のライブ配信者がいる中で、どうやってそのような美女を見つけ出すのかということである。

以前、【vol.2】の記事で『X』のシステムについて触れ、その項目にファミリーというコミュニティチャットの概要を記載した。ファミリーに加入したリスナーは、視聴中に「タグ」をつけることが可能になる。積極的に様々なタグを付けていくことは、配信者を応援することにつながる。タグは新規リスナー獲得に大きな役目を果たすため、重要度が高い。リスナーは、自分が興味のあるキーワードでタグ検索をして、新たな推しとなる配信者を探すことが多いからだ。

たかちゃんの場合は、

「#お酒大好き黒髪乙女」

「#菜々緒似美女と乾杯しよ」

「#美女、絶賛酔っ払い中」

「#ストロングゼロはノンアルですw」

「#肝臓は成長する」

など、お酒に関するタグがほとんどを占めていた。実際私も「お酒」で検索して彼女の存在を知ったので、やはりこれは重要な機能なのだと思う。

 

だがそれだけでは、新規を獲得し続け、根強いファンを多く持つ人気ライバーになることはできないはずだ。

私も、ユサちゃんや千草ちゃんにタグをつけてもらっていたのだが、たかちゃんほどの新規は獲得できていなかった。

「#恋愛相談募集中!」

「#恋に悩める人を救います!」

「#お酒飲みながら恋バナ聞くよ」

等、彼女たちは様々なタグをつけてくれた。だが、どういう訳か思ったほどの効果は期待できなかった。単純に恋愛相談に需要がないのかとも思ったが、来るときは来るのでそういうことではないのだろう。

 

なぜあんなにもたかちゃんの配信に新規リスナーがやってきたのか・・・。

その謎は、とある人物の登場によりすぐに明かされる。まさに彼女は青天の稲妻だった。いよいよ私は、「X」における集客で、最も肝心なポイントを身をもって知ることになるのである。

 

【vol.6】に続く。

 



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「ライブ配信」を毎日平均6時間やりまくった、コロナ渦8ヶ月の日々をギリギリまで激白してみた。【不定期連載vol.4】

 前回の【vol.3】はこちら

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「大好きな彼と付き合いたい」

「大好きなあの子と付き合いたい」
 
 
よくある相談である。というかそんなのばかりである。
相手がどんな人を求めているのか、何が好きなのか等をしっかりリサーチして、効果的なアプローチを仕掛けていくことが重要です。今やっていることが自己本位なアクションになっていないかどうか、まずは振り返ってみましょう。
と言ってしまいたいところだが、そんなものではチャンネル登録をしてくれないので、真摯にコメントを読んでいく。膨大な量の恋のあらすじに目を向けながら、最後にがっちりアドバイスをするというのが大抵の流れ。始めたころはリスナー数が少なかったため、相談に一人あたり20分ほどの時間を割くことが出来た。
そんななか、唯一、恋愛相談に40分を費やした女がいる。名前はリンカ。壮絶な8か月の日々の中で、一番長い相談時間を設けた女である。衝撃的な相談内容と高火力な
キャラクターは、今でも私の脳裏に血よりも赤く焼き付いている。
 
 
「私には、好きな人がいる。私は、彼と、付き合いたい。」
 
なんとなくこの1コメント目から妙な感じがした。多分この人はやばい人だ、本能的感覚によるものだろうか、瞬時にそう思った。これでもかと加工されたリンカの自撮りアイコンが毒々しく画面に映る。こちらを見つめる虚ろな目は見ているだけで呪われそうだった。だがしかし、チャンネル登録者数増加のためである。接客せねばなるまい。この日は常連リスナーのユサちゃんも千草ちゃんもなぜか来ていなかった。リンカと完全マンツーマンである。
 
「そうなんですね。今の関係はどんな感じですか?」
丁寧に無難に対応をしていく。
「まず、彼は、私のことを、知らない。」
「うーん・・・。自分の存在を知ってもらうところからはじめましょう。会話しないと関係は始まりませんからね!彼と話すチャンスってありますか?」
「彼は、歌を作るのに忙しくて、私に会えない。SNSも、やってるかわからない。連絡が取れるのは、オフィシャルサイトの、メッセージフォームだけ。」
 
彼女の奇々怪々な発言に思考が追いつかなかった。オフィシャルサイト?メッセージフォーム?‘‘私に’’会えない?画面越しに数秒間固まってしまった。
これらの情報から察するに、相手はバンドマンなのだろう。ただのバンギャなら全く問題ないのだが、これはメンヘラが相乗された危険なタイプだ。信号はほぼ赤である。
 
「…えー、その彼は…バンドマンの方なんですか?」
一応、おそるおそる聞いてみる。
「そう。ジロー。」
「ジロー?」
「知らないの?」
「いや、ジローさんってたくさんいるから。」
はぁとうんざりしたため息が聞こえた気がした。
GLAYの、JIRO。覚えて。」 
 
思い切り面食らった。てっきり小規模なビジュアル系バンドのメンバーにガチ恋しちゃってるだけかと思っていたのだが、それを大きく越えてきた。超大御所ベーシストの名前をまさかこんな形で聞くとは。これは冷やかしなのかネタなのかガチなのか。まあ雰囲気からして、確実に後者なのだろう。いや、冷やかしなら冷やかしって言ってくれていいんだよ。わたし、今なら怒らないから。というか、そう言ってほしいよ、もはや。
 
「…正直、ちょっと難しいと思いますよ。JIROさん、奥様もいらっしやいますし。」
もはや、この返し方が正しいのか間違ってるのか分からない。やんわりと焼け石に水のような正論(?)をぶつけてみたが、やはりリンカも簡単には引いてくれない。
 
「でも、私は、彼のことが、好き。どうしても、付き合いたい。」
 
一歩間違えれば犯罪の領域に踏み込みそうである。ちょっともう、この人恐い。
 
「…まず相手に自分の存在を知ってもらうところから始めましょう。ファンレターを送るなど、様々なアプローチをしてみては?」
しょうがないので多少付き合っていく。
 
「彼は、忙しい。読んでくれるか、わからない。」
「やってみないと分かりませんよ。」
「彼の、忙しさを、あなたは、知らない。」
「リンカさんはどれだけ忙しいか知ってるんですか?」
「ツアー、レコーディング、忙しいと思う。私が、彼を、癒やしてあげたい。」
 
句読点の多さ及び、謎の上から目線の発言に私はイライラし始めていた。恐怖を通り越すと、次は苛立ちに変わる。もうわかったから、さっさとこの配信から出て行ってくれと願うばかりだった。しかしその気持ちをいたぶるかのように、リンカはJIROに対する激しい愛情を語りだしていく。
その後も同じようなやりとりが延々と繰り返され、最後の方は私も匙を投げて「いや、もうJIROさんは無理だから」と乱雑にはね返すようになっていた。「あなたに、私の、愛は、わからないでしょう。」と言われたがそんなの当たり前である。むしろ分かりたくもない。
出ていく間際、リンカは1円相当のアイテムを投げていった。
「これは、あなたに、あげるものじゃない。JIROに、あげるの。」
意味不明の投げ銭である。一応40分も相談に乗ったんだし、もうちょっと投げてくれてもいいんじゃないかとは思ったが、これ以上不毛なやりとりを続けて無駄な疲労感をこうむるのはごめんである。どうも、と不愛想な礼を述べて、リンカのアイコンが消えるのをただ待っていた。もはやチャンネル登録も結構である。
ちなみに、40分で1円貰っても、俺もJIROも嬉しくないぞ。
 
                    ✳✳✳
 
なんでこんなにしんどいんだろう。配信終了のボタンを押したあと、そのまま床に座り込んでしまうことが増えた。グラスに残った少量の焼酎を飲む気力もなく、ただぼーっと壁を見つめていた。
6時間以上の配信。来てくれるリスナーは大体4,5人。新規は1日あたり1人ほど。投げ銭もほとんどない。チャンネル登録者数も伸びない。謎めいた疲労感に相当するような見返りを感じられず、始めて間もないながら、「やめたい」と何度も思った。でも、緊急事態宣言により仕事もなくなり、Youtube活動もうまくいっていない最中。
自分に出来ることはライブ配信だけだった。
いつか人がたくさん来てくれると信じて、毎日毎日やり続けるしかない。
 
つづく
 

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「桜の樹の下には死体が埋まっているんだって!」と若者たちは燥いでいた。

桜の樹の下には死体が埋まってるんだって!」

 

満開を過ぎた桜を見ながら、若者たちはウキウキと燥いでいた。

深夜1時を回ったこの大きな公園は閑散としていて、昼間の花見客が嘘のようだった。遠くのほうにちらほらと人影が見えるが、きっと彼らも夜の花見に来たのだろう。というか、花見を口実にただ野外飲み会を開きに来たのだろう。このご時世であろうとおかまいなしだ。まあ、僕らには関係ないことだけど。

夜は僕らのものである、という認識はもうすでに古き認識となった。朝も夜もいつだって彼らは活動している。だから夜はみんなのものでいい。夜桜だってみんなのものでいい。

 

散り落ちてくる桜の花びらをつかむ遊びを幼いころよくやった。すばやく腕を伸ばすと、その風圧で花びらは逃げてしまう。そんな動作を数回繰り返すが、結局取れずに地面に落ちる。妙に悔しさが募る遊びだった。

もうすでに葉桜が目立ち始めている。花びらはなかなか落ちてこない。

 

桜の樹の下に屍体が埋まっていようがいなかろうが、桜が綺麗なことに変わりはない。こんなに美しいのだから、屍体が埋まっている?死んだ人間がそんな力を持っているわけないじゃないか。彼らが「綺麗だ!」と言わなければ桜はただの植物でしかない。僕らがやっているのは桜を咲かせることであって、綺麗なものとして認識してくれるのは彼らなのだ。神秘的な感じにしてくれるのは嬉しいけど、なんだかおこがましいような複雑な気分になる。

桜の樹の下には死体が埋まっている!なんていちいち騒ぐ必要はない。生と死の風流に酔う必要もない。君らは花見酒を呑んでいるだけでいい。

その姿を見ているだけで、酒の味くらいは思い出せる気がする。

 

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「ライブ配信」を毎日平均6時間やりまくった、コロナ渦8ヶ月の日々をギリギリまで激白してみた。【不定期連載vol.3】

前回の【vol.2】はこちら。 

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午後3時、歯を磨き顔を洗う。髭を剃り、BBクリームで肌の見栄えを整え、入念に髪型を作っていく。今日は昨日より遊ばせた感じにしようかしら。毛先を軽くねじってハネをじゃんじゃん作っていく。ううむ、いい感じいい感じ!橋本環奈が見に来たとしても恥ずかしくないぜ、と鏡の自分ににんまりする。

出来上がった顔面を堪能したのち、洗面所を出てキッチンへと向かう。業務用の4リットル焼酎を氷の詰まったグラスになみなみとそそぎ、浄水をペットボトルに入れていく。水割りセットを完成させ、それらを持って自室へと戻る。そしてベッドに放り投げていたスマートフォンへと手を伸ばす。

さあ、今日もライブ配信アプリ「X」の冒険を始めよう。

 

               ***

 

ユサちゃんと千草ちゃんは最初の常連リスナーだった。

ユサちゃんは4月から大学生になったのだが、緊急事態宣言で大学がまだ始まっておらず、暇を持て余している女の子。千草ちゃんは24歳のフリーター。現在休職中らしいが、去年まではキャバ嬢をしていたとのこと。

駆け出しライバー(配信者)ゆえそれほどフォロワーもいない私にとって、毎回来てくれる常連リスナーを掴めたことは大きかった。配信しても誰1人来てくれなければ、YouTubeの宣伝のしようがない。そしてなにより、悲しい寂しいつまらない。緊急事態宣言で人と交流する機会が激減したので、せめてこのバーチャルな空間だけでも人と話したかった。また、‘‘発信者‘‘として生きていきたい自分にとって、配信しても誰も来ない事態は非常に恐怖でもあった。それゆえ、黎明期を支えてくれたユサちゃんと千草ちゃんの存在はとても有り難かった。

 

2人はすごく仲が良かった。好きな人がいるが、付き合うまでには至っていない。そしてそれが遠距離である、という状況が共通していたからかもしれない。新規のリスナーさんが私の配信にやってくるというのは稀だったので、ほとんどの時間を3人きりで過ごした。YouTubeの次回作の話や過去作の感想など、他愛ない世間話で盛り上がりつつも、彼女たちの恋愛相談が主な話題だった。

 

「千草ちゃん、こんにちは。今日もよろしくね!」

配信を開始すると、千草ちゃんはいつもすぐにやってきてくれる。

「成生くん、どうしよう。」

「ん?なにかあった?」

「うち、彼から嫌われたかもしんない」

「え、どうして!?」

「既読になってるんだけどラインが返ってこないの!」

「どんなライン送ったの?」

「夜勤が終わる時間に、おつかれさま♡って送ったの!」

「それだけ?」

「あとは、彼が大阪住んでるからコロナ終わったらユニバ行こうねって。たこやき食べたいねって…。あんまりしつこくラインし過ぎると逆効果になっちゃうかもって成生くん言ってたよね。これってしつこい?どう思う?」

「いや、単純に疲れてるだけじゃない?彼、夜勤でしょう。嫌ってないと思うよ。」

「そうかな、大丈夫かな。不安だよお。返信、待った方がいい?」

「うん、待ってた方がいいね。大丈夫、普通そんな簡単に嫌うことないよ。」

「わかった!頑張る…。でもやっぱり不安…。」

 

こんな会話を毎日のようにやっていた。恋愛って不安定なものだし、ラインが返って来ないだけで一喜一憂してしまうのは分かる。だけれども、そんな頻繁に心のジェットコースターしてたら貴女苦しいでしょうに。

「正直この話題聞き飽きたなぁ」なんて軽い疲労感を覚えていると、少し遅れてユサちゃんがやってきた。

 

「成生くん、千草ちゃん、こんにちは!」

やっほー!ユサちゃーん!興奮気味に千草ちゃんが挨拶を返す。

「成生くん、相談があるんだけど。」

ふむ、君もか。

「どうしたの?」

酒を1口含んでから、先月まで女子高生だった彼女の悩みを聞いていく。

「大学始まったら、新しい出会いもあるのかなあってー。」

「たくさんあるよ!あれ、片想いの彼はどうなったの。」

「えーとね…もし付き合えても遠距離だし寂しくなっちゃうかなぁって。分からないけど相手ももう彼女いるかもしれないし。だから…諦めた方がいいのかなぁって!ねぇ、どうすればいいと思う?」

7:3で割った濃いめの焼酎水割りをがぶっと飲み干し、アルコールの力を使って顔の筋肉を緩める。おいおい、昨夜まで好き好き言ってた彼はいったいどうしたんだ。

「確証もないのに諦めちゃ駄目だよ。」

「でも、聞く勇気が出ないの。」

「彼のTwitterやインスタに彼女の影はないの?」

「たぶんないと思う…。」

 

こうして今宵も3人で恋バナを繰り広げていく。大丈夫だよという魔法の言葉を何度も投げかけつつ、時折脇道にそれつつ。一旦彼女たちの話は置いといて、本当は新しい恋愛相談を聞きたいんだよなぁと心の中で思ってみるけれど、初見さんはほとんど現れない。モヤモヤした気持ちを抱えながら、グラスに焼酎をどぼどぼと注ぎまくる。

 

 

ぶっちゃけ恋愛相談をじっくり聞くのは結構疲れる。相談者はネガティブな感情をぶつけてくるから、こっちはそれに負けないポジティブで立ち向かわなきゃいけない。そして第三者的立場から見た冷静な目線をキープし、相手をもてなさなくてはならない。メンタル的になかなかハードな仕事だ。

もともと、恋愛相談はYouTubeの登録者数を増やす目的で始めたのだし、長々とやってしまってはもはやカウンセリングになってしまう。それはコンセプトとは違う。

きっと明日には、ラインが返ってきた千草ちゃんが惚気てくるだろうし、ユサちゃんもやっぱり彼を諦めきれないって決意表明しに来るのだろう。もちろん、それらもちゃんと聞くつもりだが、やはり私は、チャンネル登録者増加のため新規リスナーさんの恋愛相談をメインでやりたい。

 

そもそも、どうして全然人が来ないのだろう。プロフィールに『恋愛相談します!』って書いてるし、割と需要あるはずなんだけど。

寝ても覚めても頭の中は、新規リスナー獲得のことでいっぱい。ガールズトークで埋まるコメント欄を見ながら、私は小さな焦燥感を感じていた。

 

つづく


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「ライブ配信」を毎日平均6時間やりまくった、コロナ渦8ヶ月の日々【不定期連載vol.2】

前回記事はこちら。

takamichi-nariu.hatenablog.com

 

 

チャンネル登録者の大半は実際に交流した人々である。ゆえに、オンライン上でコミュニケーションの輪を作れば、今までと同じように直接Youtubeの宣伝が出来るかもしれないと考えた。そこで始めたのがライブ配信アプリ「X」だった。

様々な種類のライブ配信アプリがあるが、「X」には一般人が多いのが特徴である。登録も簡単で、誰でもすぐに配信者になることができるらしい。芸能人も参戦しているライブ配信アプリよりハードルは低そうである。

長ったらしいアプリの説明が公式サイトにあったが、小難しいシステム概要はすべて後回しにした。まずはやってみよう、やりながらゆっくり覚えていけばいい。この時は上手く宣伝出来たら万々歳!程度にしか考えていなかった。

 

こうして私は意気揚々と「X」をインストールし、ゆくゆく様々な人たちと出会うことになる壮大な冒険へと繰り出した。

 

 

         ***

 

 

 酒を飲みながら恋愛相談に乗る。

これが私「恋愛心理学アルチューバー」の主な活動だった。

当時私は、酒が好きだという理由で「アルチューバー」というYouTubeネームを使っていた。単純にアル中とユーチューバーをかけたネーミングである。そこに宣伝材料の恋愛心理学を付け足し、「恋愛心理学アルチューバー」としたのだった。

ふざけた名前だなと我ながら思っていたが、その奇怪さが功を奏したのか、わりとすぐに相談者はやってきた。

 

 

「3年間彼氏が出来ないんですけど、どうすればいいですか?」

 

初めて相談をしてきたのは‘‘林檎さん‘‘という女性だった。とにかく出会いがない、という彼女。確かに緊急事態宣言中だし、近日中に出会いを求めるのは難しいことである。だが去年はまだコロナの恐怖にさらされていない。ゆえに、コロナ渦以前の恋愛動向について探ってみることに。

 

「ちなみになんですけど。過去3年間の中で、合コンとかしました?」

「合コンは今までしたことないです。」

「今はご時世的に厳しいかもしれないけれど、これまでは男性とよくご飯食べに行ったりしてました?」

「行かないですね。1か月に1度、家族で外食に行くか行かないかです。」

「職場は男性多いですか?」

「職場恋愛はしない主義です。」

 

ああ・・・。心の中で空を仰いだ。これじゃ新しい出会いも何もないよ。っていうか3年前にいた彼氏とはどうやって出会ったんだろうか。不思議である。

 

 「多くの人と出会った方が、良い相手が見つかる確率が増えますよね?」

「はい。」

「現在の林檎さんの出会いは、専ら受動的なものが多いかと思います。ですが、今の状態では求めている出会いが見つからないわけじゃないですか?そこに能動的出会いが加わればもっと多くの人と会えますよね。出会いの絶対数を増やして、まずは確率を上げることから始めるといいかもしれません。」

行動しなきゃ現状は変わらないよ!とそれとなーく促す。

 

「能動的出会いを増やす…か。わかりました。ありがとうございました。」

 

そうコメントを残すと、林檎さんはあっさりいなくなった。初めての恋愛相談は驚くほど呆気なく終わった。YouTubeを宣伝する間もなく、画面に映っていた林檎さんのアイコンは消えてしまった。

え、ライブ配信ってこんなもんなの?聞くだけ聞いていなくなっちゃうの?せっかく出会ったのにもうこれで終了なのかよ。始めたばかりで視聴者全然いないんだから、せめてあと少し滞在してってくれよ…。

当時は配信における「人間関係」に慣れていなかったため、切なさを引きずり、こんな些細なことでも心の小さな棘が抜けなかった。しかし、まだまだ冒険は始まったばかり。いろんな人がいるのだ、しょうがない。切り替えていくしかない。毎日配信を続けて宣伝すればちゃんとチャンネル登録者は増えるはず。さぁ、めげずに頑張ろう。

ちょっとした悔しさと切なさを抱えながら、私はひたすら船を漕いだ。

 

 

つづく

 

    ライブ配信アプリ「X」のシステム

 

  • コイン:1分30秒ごとにコメントを打ち込み、7分間その人の配信に滞在することで獲得できる。一回につき、ランダムで3~10コイン。1つの配信枠で1日2回獲得チャンスがある。1コイン=1円で購入することも可能。
  • アイテム:コインを消費し、視聴者が配信者にプレゼントするもの。投げ銭。1コイン~5555コイン相当のものがあり、画面にエフェクトを生じさせる。配信者のランクメーターにも大きく影響する。
  • ランク:E帯~S帯までのランクがあり、上級配信者はB帯~S帯にいる。人気度の指標になるため、多くの配信者が上のランクを目指している。配信しないと徐々にランクが下がってしまう。
  • ファミリー:配信者と視聴者のコミュニティチャット。また、配信者のファミリーに入ると、視聴中に「タグ」をつけることができる。「タグ」検索をすることによって新しい配信者との出会いを得る視聴者が多いので、新規獲得非常に重要である。(私の場合は、‘‘恋愛相談受付中‘‘というタグが多かった)

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女子高生がちょっと大人びて見える、土休日限定「レディーマジック」。

塾講師と居酒屋バイトを掛け持ちするフリーターの身なので、祝日だろうが土日だろうが特に意識することはない。
人の出入りが激しいゆえ平日に比べ若干忙しいかな!という認識でちょっと多めの仕事を請け負うのみである。

しかし唯一弊害があるとすれば、電車のダイヤが‘‘いつも通り‘‘ではないことだ。

20分かけてご飯を食べ、30分で洗顔やヘアセット等を終え、7分歩いて駅に着く。電車に優雅に揺られながら、職場の駅に着く直前まで不可侵な交渉たる妄想にふける。
駅を出て、やあやあと灰色のビル群ににこやかに手を振る。しかし、そのさわやかな表情とは裏腹に、心の奥底で燃えたぎっているのは戦場に向かうモノノフの魂。パワー満載のティーンエイジャーたちと戦うには生半可な気持ちではいけない。
ごくりと唾を飲み込み、スペクタクルなコロシアムへと私は足を踏み入れる。

この素晴らしきルーティーンが大幅に崩れてしまうのが不快である。

能天気に平日通りにゆったり動いて、いざ駅に降り立ってみるとそこに電車の姿はない。あれれ、おかしいなと思い頭上の電子時刻表を眺めてみると電車到着時刻は7分後と表示されている。
くそ!今日は土休日ダイヤだ!気付いた時にはもう遅い。高尚な時間を過ごすことも、強者の真似事もしている余裕はない。ひたすらスマートフォンの時計とにらめっこをし、全力疾走で汗をびちゃびちゃと周囲にまき散らし、冷ややかな目で見られながら出勤するのがオチである。

土休日は電車に乗れなくなるのでいつもより10分ほど早起きをしなければならない。たかが10分、されど10分である。微々たるものだが、この差は大きい。猛ダッシュを敢行して、丹念込めて作ったヘアスタイルを風や汗にぐちゃぐちゃにされたくはない。

 


だが良い面もある。

土休日はルーティーンに新しい刺激をもたらし、普段とは違う新鮮な光景を映し出すということだ。
普段は学校終わりにそのまま私服でやって来る生徒も、土休日になれば垢抜けた私服姿で塾にやってくる。居酒屋では、仕事終わりにやってくる常連客も、スーツの殻を破ってカジュアルスタイルで昼飲みをしに来る。

「ホントはみんなこんな感じなのね。」


学校や職場に縛られて生きている人々が、あるがままの自分を表現していく。校章が刺繍された制服に身を包まれていないだけでこんなにも違うのかと、きゃぴきゃぴな生徒たちを見ていていつも思う。特に女子高生なんか、私服に着替えてメイクを施しただけで大人びた雰囲気をぐっと醸し出せちゃうのだからすごい。おお・・・とじっくり感嘆したいところではあるが、余計な罪を被りたくないので大人しく胸の内で踊っておく。


人には様々な顔がある。それは美しいものだったり醜いものだったりするだろう。しかしその良し悪しに関係なく、我々は裏面の姿に惹かれてしまう。
誰かにとっての表で、誰かにとっての裏。いや、もちろん我々は多面体生物であるからそんな単純な話ではない。A面の裏がB面。その両面は見たことがないけどC面は知っている。いくつかの面から人間は成り立っているからミステリアスで魅力的なのだ。


つまりこれからだっていつだって、なんだったら誰にだってコロッといっちゃう瞬間が来てもおかしくないのである。
(無論、深い意味はない)


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