「ライブ配信」を毎日平均6時間やりまくった、コロナ渦8ヶ月の日々をギリギリまで激白してみた。【不定期連載vol.3】

前回の【vol.2】はこちら。 

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午後3時、歯を磨き顔を洗う。髭を剃り、BBクリームで肌の見栄えを整え、入念に髪型を作っていく。今日は昨日より遊ばせた感じにしようかしら。毛先を軽くねじってハネをじゃんじゃん作っていく。ううむ、いい感じいい感じ!橋本環奈が見に来たとしても恥ずかしくないぜ、と鏡の自分ににんまりする。

出来上がった顔面を堪能したのち、洗面所を出てキッチンへと向かう。業務用の4リットル焼酎を氷の詰まったグラスになみなみとそそぎ、浄水をペットボトルに入れていく。水割りセットを完成させ、それらを持って自室へと戻る。そしてベッドに放り投げていたスマートフォンへと手を伸ばす。

さあ、今日もライブ配信アプリ「X」の冒険を始めよう。

 

               ***

 

ユサちゃんと千草ちゃんは最初の常連リスナーだった。

ユサちゃんは4月から大学生になったのだが、緊急事態宣言で大学がまだ始まっておらず、暇を持て余している女の子。千草ちゃんは24歳のフリーター。現在休職中らしいが、去年まではキャバ嬢をしていたとのこと。

駆け出しライバー(配信者)ゆえそれほどフォロワーもいない私にとって、毎回来てくれる常連リスナーを掴めたことは大きかった。配信しても誰1人来てくれなければ、YouTubeの宣伝のしようがない。そしてなにより、悲しい寂しいつまらない。緊急事態宣言で人と交流する機会が激減したので、せめてこのバーチャルな空間だけでも人と話したかった。また、‘‘発信者‘‘として生きていきたい自分にとって、配信しても誰も来ない事態は非常に恐怖でもあった。それゆえ、黎明期を支えてくれたユサちゃんと千草ちゃんの存在はとても有り難かった。

 

2人はすごく仲が良かった。好きな人がいるが、付き合うまでには至っていない。そしてそれが遠距離である、という状況が共通していたからかもしれない。新規のリスナーさんが私の配信にやってくるというのは稀だったので、ほとんどの時間を3人きりで過ごした。YouTubeの次回作の話や過去作の感想など、他愛ない世間話で盛り上がりつつも、彼女たちの恋愛相談が主な話題だった。

 

「千草ちゃん、こんにちは。今日もよろしくね!」

配信を開始すると、千草ちゃんはいつもすぐにやってきてくれる。

「成生くん、どうしよう。」

「ん?なにかあった?」

「うち、彼から嫌われたかもしんない」

「え、どうして!?」

「既読になってるんだけどラインが返ってこないの!」

「どんなライン送ったの?」

「夜勤が終わる時間に、おつかれさま♡って送ったの!」

「それだけ?」

「あとは、彼が大阪住んでるからコロナ終わったらユニバ行こうねって。たこやき食べたいねって…。あんまりしつこくラインし過ぎると逆効果になっちゃうかもって成生くん言ってたよね。これってしつこい?どう思う?」

「いや、単純に疲れてるだけじゃない?彼、夜勤でしょう。嫌ってないと思うよ。」

「そうかな、大丈夫かな。不安だよお。返信、待った方がいい?」

「うん、待ってた方がいいね。大丈夫、普通そんな簡単に嫌うことないよ。」

「わかった!頑張る…。でもやっぱり不安…。」

 

こんな会話を毎日のようにやっていた。恋愛って不安定なものだし、ラインが返って来ないだけで一喜一憂してしまうのは分かる。だけれども、そんな頻繁に心のジェットコースターしてたら貴女苦しいでしょうに。

「正直この話題聞き飽きたなぁ」なんて軽い疲労感を覚えていると、少し遅れてユサちゃんがやってきた。

 

「成生くん、千草ちゃん、こんにちは!」

やっほー!ユサちゃーん!興奮気味に千草ちゃんが挨拶を返す。

「成生くん、相談があるんだけど。」

ふむ、君もか。

「どうしたの?」

酒を1口含んでから、先月まで女子高生だった彼女の悩みを聞いていく。

「大学始まったら、新しい出会いもあるのかなあってー。」

「たくさんあるよ!あれ、片想いの彼はどうなったの。」

「えーとね…もし付き合えても遠距離だし寂しくなっちゃうかなぁって。分からないけど相手ももう彼女いるかもしれないし。だから…諦めた方がいいのかなぁって!ねぇ、どうすればいいと思う?」

7:3で割った濃いめの焼酎水割りをがぶっと飲み干し、アルコールの力を使って顔の筋肉を緩める。おいおい、昨夜まで好き好き言ってた彼はいったいどうしたんだ。

「確証もないのに諦めちゃ駄目だよ。」

「でも、聞く勇気が出ないの。」

「彼のTwitterやインスタに彼女の影はないの?」

「たぶんないと思う…。」

 

こうして今宵も3人で恋バナを繰り広げていく。大丈夫だよという魔法の言葉を何度も投げかけつつ、時折脇道にそれつつ。一旦彼女たちの話は置いといて、本当は新しい恋愛相談を聞きたいんだよなぁと心の中で思ってみるけれど、初見さんはほとんど現れない。モヤモヤした気持ちを抱えながら、グラスに焼酎をどぼどぼと注ぎまくる。

 

 

ぶっちゃけ恋愛相談をじっくり聞くのは結構疲れる。相談者はネガティブな感情をぶつけてくるから、こっちはそれに負けないポジティブで立ち向かわなきゃいけない。そして第三者的立場から見た冷静な目線をキープし、相手をもてなさなくてはならない。メンタル的になかなかハードな仕事だ。

もともと、恋愛相談はYouTubeの登録者数を増やす目的で始めたのだし、長々とやってしまってはもはやカウンセリングになってしまう。それはコンセプトとは違う。

きっと明日には、ラインが返ってきた千草ちゃんが惚気てくるだろうし、ユサちゃんもやっぱり彼を諦めきれないって決意表明しに来るのだろう。もちろん、それらもちゃんと聞くつもりだが、やはり私は、チャンネル登録者増加のため新規リスナーさんの恋愛相談をメインでやりたい。

 

そもそも、どうして全然人が来ないのだろう。プロフィールに『恋愛相談します!』って書いてるし、割と需要あるはずなんだけど。

寝ても覚めても頭の中は、新規リスナー獲得のことでいっぱい。ガールズトークで埋まるコメント欄を見ながら、私は小さな焦燥感を感じていた。

 

つづく


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