【コロナ渦で失業したので、ライブ配信を毎日平均6時間やりまくってみた8ヶ月のこと】連載記事vol.11

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 【コロナ渦で失業したので、ライブ配信を毎日平均6時間やりまくってみた8ヶ月のこと】連載記事vol.1

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シルバーさんは、金髪パーマがよく似合う、柔らかい関西弁が特徴の男性美容師ライバーだった。

缶ビールか白ワインを飲みながら、のんびりとコメントを読み上げていくマイペースな雰囲気が居心地良い。5月の初め頃から、だらだらと枠に入り浸るようになっていた。

 

シルバーさんの配信には特別なイベントがあった。みんな大好き大喜利大会である。普段は他愛もない雑談をぽろぽろとしているだけなのだが、リスナーが8人以上集まると、そこは大喜利会場に変わる。ホワイトボードを用意し、タブレット大喜利のお題を調べ始めるシルバーさん。回答権は1つのお題につき2回で、制限時間は10分弱。どんなお題が来るのかわくわくしながら、誰よりもイケてるコメントを残してやるぜと闘争心を燃やす。

顎を動かすと脳に酸素がゆき頭の回転が速くなるらしいので、出題を待っている間私は一生懸命ガムを噛みまくっていた。

 

「はい、じゃあいきますよー。」

マーカーを置き、ボードを裏向きに抱くシルバーさん。さぁ、いよいよだ。緊張の一瞬である。

 

『私、失敗しないので!と言っていた外科医が汗だくに。いったい何があった?』

 

くるっと表に返されたボードにはこう書いてあった。

お題を確認した我々は、考えを巡らせるため一旦沈黙し、画面にはニヤニヤしたシルバーさんの顔とホワイトボードが映し出される。回答権は1人2回までなので、慎重にコメントをしなければならない。あとからいい感じの回答を思いついたとしても、それは無効になってしまう。

 

「避妊に失敗した。」

「夏場なので、単純に暑い。」

「手術中、誰も汗を拭いてくれない。」

「間違えて内科の診療室に来てしまったものの、そのまま引き下がれなくなった。」

 

ぞくぞくと回答が出てくるが、大抵こういうのは一番初めに出されたものが強い。シルバーさんはゲラなのでずっと笑っているのだが、延々と最初の笑いを引きずっているので、印象に残るのはどうしても一撃目のものになってしまう。

進行役が面白いと言ってしまえばそれが正義になりやすい世界。Twitter大喜利と違って、少人数かつリアルタイム進行というのもあるのだろう。皆、「遅れを取った!」と焦りはじめ、微妙な回答が続いてしまうのも関係してくる。そしてその空気を打破したり、飲まれてしまったりといった攻防を繰り広げるのも、ライブ配信大喜利大会の醍醐味なのだ。

最優秀回答は、その場にいるリスナーの投票で決まり、選ばれると皆から賛辞賞賛のコメントが送られる。そしてそれを眺めながら、頬を緩ませじっくりと悦に浸る。おすすめの美容グッズがシルバーさんから送られる、ということもない。ただ少しばかりカッコよく見られるだけだ。

もちろんそれでも構わない。むしろ大きな名誉だ。あの人、クレバーだよね!と思われるだけで承認欲求は充分満たされる。 

 

ちなみに、私が最優秀回答賞を取ったものは、

お題:『木星でやると盛り上がる、面白い大喜利のお題とは?』

解答:『セーラームーンを主役から降板させる方法を教えてください。』

のたった1回のみである。

ああ、大喜利王への道は険しい。

 

 

                                      ***

 

 

配信を始めて1ヶ月ちょっと経っていた。

 

「彼氏に依存してほしいんですけど、どうしたらいいですか?」

「高校2年生男です。好きな人に上手くアプローチするにはどうすればいいですか?」

「旦那以外の男性を好きになってしまいました。不倫したいと思ってるんですけど、バレない方法ありますか?」

「3年間セフレ関係の男がいるんですが、彼氏と別れたんでその人と付き合いたいです。どうしたらいいですか?」

 

多種にわたる全てのお悩みにじっくり対応していたため、『枠主に自分のコメントを読み上げてもらい、どんなレスポンスが返ってくるのか楽しみに待つ』という、ライブ配信の基本的な楽しみ方を全員に提供できなくなってきていると徐々に感じ始めていた。

また、DaiGoさんの真似で始めた心理学講義も、「X」で求められているコミュニケーションとは程遠いやり方だった。聞きたい!ではなく、喋りたい!と思っている方々には合わない配信になってきていたと思う。「ああ今日も疲れたよー!」のような雑談コメントを打とうにも、私の解説が終わるまで待たなければならない。

それゆえ、相談に来てくれるご新規さんは多くなってきたけれど、常連リスナーさんは減ってしまった。千草ちゃんやユサちゃんの姿も以前のようには見なくなり、大抵1番乗りでやってくるムササビ(vol.9参照) と喋りながら誰かが来るのを待つということが多くなった。

 

「ムササビ、この状況かなりやばいよな。モチベーション下がっちまう。」

「うむ・・・。俺はこの枠の相談シーン好きなんだけどな。自ら解決策を考えないで、相談に来る人はただの怠け者ですって言い放った成生、カッコよかったぜ!笑」

「ありがとう。でも、なんか若干ショー化してきちゃってるよね。相談者に対して俺が言ってるのを他のみんな黙って聞いてる、みたいな。」

「ああ、確かに。テレビ見てる感覚に近いかも。画面の向こうでうんうん頷く感じ。」

「このアプリの楽しみ方じゃなくなってるよね。そりゃ常連も付きにくいわけだ。」

「成生のフォロワー数は増えてるんだけどね・・・。そういえばチャンネル登録者はどう?増えた?」

「ぼちぼちって感じかなあ。あとで登録します!って言っても、本当にしてくれてるかどうかは分らないし。」

「なるほどな・・・。やっぱりランクを気にして人気度高めるしかないのかなあ。」

 

ランク。「X」界における人気度の指標になるものである。 (vol.2参照)

そんなもの気にせずに恋愛相談とYoutubeの宣伝に勤しんでいたけれど、他の配信者はちゃんと気にしているようだ。400円相当のアイテムでリクエストにこたえるミュージシャンもいたし、ファミリーに入るのにも一定の視聴時間やアイテムの貢献度が必要とするモデル美女もいた。

各々様々な方法でアイテムを投げてもらい、それに付随してランクを上げようと奮闘している。実際、そのような人ほどランクは高いし配信も盛り上がっているのは紛れもない事実。「アイテム投げなくていいからチャンネル登録してくださーい」という売り文句で通し続けていたほぼ完全無料の我が枠は、ランクも盛り上がり度も芳しいとは言えないものだった。

彼の言うとおりである。人気度を高めないことにはきっと両方満たせない。かと言って、爽やかな青年にイメチェンし黄色い声援を浴びるのは無理があるし、知的で大衆を導くカリスマメンタリストになるにも実力が足りなさすぎる。もちろんWIKちゃんみたいに、どんな人にでもいい感じでコミュニケーションを取れる柔軟性も持ち合わせてはいない。ましてや、講義はやめたくないし恋愛相談も継続したいという我儘っぷり。しかし、「アイテムくれくれ。」と直接言いまくるのは抵抗がある。自分のことながら本当に面倒くさい。

 

そこで私は思いついてしまった。

「みんなが全然アイテム投げてくれないからランク上がりません。」というメッセージを暗に込めた、卑怯な声明を出してしまえばいいのだと。リスナーさんの罪悪感を利用した汚い手法だし、こんなことをしなければならないほど自分が落ちぶれているのを認めたくはなかったが、もうこれしかなかった。

まだ1か月ちょっとだけど、6時間以上の配信を毎日休まずやってきた。枠に来てくれたリスナーさんには、自分なりに真摯な態度で向き合ってきた。「気持ちが晴れました!」「ありがとう!」というコメントもたくさん頂いたけれど、結局言葉だけでは充足感が満たされなかったのだ。チャンネル登録をしてもらうだけじゃない、やはり配信には配信の報酬がある。ランクも【-、±、+】と細かい区分があって、私はずっとD-から変動しなかった。ランクメーターを見るたびに、自分の存在意義が分からなくなった。

 

『6月1日までにランクがD+に行かなかったら「X」を引退します。』

プロフィール欄に新しく記載する1文は、何度か書き直しをした。

配信辞めますではなく、引退しますと表現した自分は、狡い人間である。だけどそれでもいい、この先に夢のような明るい未来が待っているのなら。

 

【vol.12】へ続く。

 


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