【エヴァンゲリオンLINEスタンプを送りたいのに、そもそもそんなに友達がいない悲愁と喜悦のジレンマ】
私は時折、ライブ配信アプリ「X」なる欲望にまみれた破廉恥な媒体を使い、苦い毒や苦い薬やただただ苦いだけの言葉を世界に向けて発信している。
そしてそのシステムの中には、ファミリーと呼ばれる配信者とリスナーが交流できるチャットスペースがあり、私自身もそれを猥談広場として日々利用している。
そして先日、その猥談広場で久しぶりに健全な話題が上った。
「エヴァンゲリオン」である。
学研から発行されている「感情ことば選び辞典」がエヴァンゲリオンとコラボしており、その表紙に綾波レイが描かれていたので思わず買ってしまったという自己満足極まりない話をしたところ、意外にも盛り上がったのだった。
私のことを先生と女学生のごとくうやうやしく慕ってくださるリスナーSさんもエヴァが好きらしく、「ラインスタンプもありますよ!」と画像付きで教えてくれた。
「口の前に手を動かせ!」
「合点でいっ!」
「おめでとう」
などの名台詞がエヴァ文字で書かれたスタンプだった。言葉の種類も豊富ゆえ様々なシチュエーションで使えそうだし、なによりエヴァだ。欲しい。だってエヴァなんだもん、問答無用で欲しい。
そして本当に貰っちゃったのである。
モノ好きな男性リスナーさんのひとり、Mさんから有難く頂戴してしまったのである。
Mさんはとある女性歌手さんのファンなのだが、実はこの歌手の方は、私がかつて音楽をやっていた時代にお世話になった師匠なのである。そういう繋がりもあって、我々はぷわぷわと交流を深めていったのであるが、こんな私に興味を持ち続けているとはやはりモノ好きな人である。
「ラインくれたらスタンププレゼントしますよー。」
「え、まじっすか。いただけるならほしいです。」
TwitterのDMでラインのQRコードを送ると、本当にスタンプが送られてきた。
まさかのエヴァスタンプ全種類が送られてきた。
もはやお礼を言っても言い切れない。
画面の向こうと画面の中の両方で気味の悪い奇声をあげながら喜んだ。
嬉しさのあまり上昇気流に乗って大気圏を突破しそうになってる狂ったテンションに、Mさんたぶん引いてたと思う。
Mさんありがとう!じゃんじゃん使いまくりますぜ!はやる心を抑えきれずに、スタンプを送る相手を最新のトーク履歴から探した。
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(以下省略)
トーク欄に羅列された「友達」の名前を見て愕然とした。
そして現実を悟った。
俺、送る相手がいねえ。
友人や知り合いから頻繁に連絡が来る明るい人気者ではないし、疎遠の知り合いにいきなりエヴァスタンプをぴょんと送りつけ、自慢しちゃうような寂しがり屋にもなりたくない。
だがしかし、「ほしいほしい」と欲念に身を任せ、それに広い心で応えてくれたMさんの優しさを踏みにじるような行為はしてはならない。誰かに送らなければならない。行き場を失ったスタンプたちを途方に暮れながら見つめた。
恨めしげに綾波レイがこちらを覗いてくる。アスカが軽蔑に満ちたゴミを見るような目を向けてくる。カオルくんが「君はかわいそうな子だね・・・。」と言っている気がする。
私は罪悪感に苛まれながら、ラインをそっと閉じた。
「まだ時は満ちてないんだよ・・・」
老若男女から人望を得て引っ張りだこになったら、毎晩誰かを誘えちゃうようなパーリーピーポーになったら、彼らは活き活きとした表情を多くの人に披露することが出来るのだろう。そんな日が来るかどうか保証は出来ないが、小さく夢だけは見ておこう。
せつなげに胸を張り、薄暗くなった夕方の風に髪をなびかせながら私はポケットからスマートフォンを取り出す。そしてフッと憂い気な微笑みを浮かべ、再びポケットへとアルミニウム合金の塊を戻す。背中を紅く焼きながら固い道を歩き出し、一匹狼を気取って遠くに見える気がする山に向かって吠えたつもりになった。
この文章は絶対にMさんに読まれてはならない。