【コロナ渦で失業したので、「ライブ配信」を毎日平均6時間やりまくってみた8ヶ月のこと】vol.12

 

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 【コロナ渦で失業したので、「ライブ配信」を毎日平均6時間やりまくってみた8ヶ月のこと】vol.12

 

『6月1日までにランクがD+にいかなかったら「X」』を引退します。』

同情を誘った卑しい発表の効果は抜群だった。

 

恋愛相談に乗った人たちが100円相当のアイテムを投げてくれるようになったのである。1発1発は大きかった。おかげでランクダウンせずにD-~D±帯を維持することが出来るようになった。

常連リスナーさんの協力も有難かった。毎晩毎晩来てくれるだけでも感謝なのに、私のランクメーターさえも毎回気にしてくれるようになったのだ。「あと〇〇ポイントくらいで今日はD±帯キープできるから今晩も一緒に頑張ろう!」と、新規リスナーを呼ぶためのタグ付けに協力してくれた。

「スクショの準備して!」と夜勤の合間を縫ってきてくれたT(【vol.】参照)に「花火」というアイテムを投げてもらったことがある。なんとこれは1000円もするのだ。色とりどりの花火エフェクトが画面という夜空を埋めつくす。

Tは感謝と驚きで口が半開きになったままの私を笑うと、「じゃ!時間ないからこれで!頑張って!」とすぐに仕事に戻っていった。彼女には養成時代にも飲み代をおごってもらったりと散々お世話になった。姉さん、めちゃめちゃ男前である。

 なんとかなりそうな空気が漂い始めていた。6月1日になった瞬間にD+になっていればいいのであるから、現状を保ちつつ1日前あたりから皆におねだりしまくればおそらく問題はない。
しかし油断は禁物である。上手くいかない時期を1ヶ月過ごしてきたからこそわかる。転落するのは本当に一瞬だ。今こそが正念場なのだ。
夕方に2時間半、深夜配信は早朝6時まで延ばし、新規リスナーと出会える機会を増やした。恋愛以外の人生相談も乗れるように、DaiGoさんの生放送視聴のほか自己啓発本をやみくもに読み漁った。本当はDaiGoさんがおすすめしていた本が欲しかったけれど、ニートのお財布事情では買えなかったので大体は古本屋で安く売られているようなもので済ませた。そしてそれらをノートにまとめて「オリジナル心理学ノート」を作り、対応力のスピード性を高めた。

時間は大量にある。むしろ私にはそれだけしかない。ほとんどの時間をライブ配信のために捧げ、引退を阻止するために追い上げをかけた。

 

【警告】配信を停止しました。不測の事態が起こる恐れがある配信(露出の多い衣装、化粧室での配信など)や、わいせつな内容は強制停止の対象になります。

 

「はい、勇者。」

SHIKIMIは運営から届いた通知のスクリーンショットを送ってきた。 

過剰に肌を露出したりすると運営からこのような通知が送られてくる。もちろん私は受け取ったことなどない。エロチシズムな発言や腰を前後に振るモーションは何度もしたが、さすがに服を脱いだことは無かった。

「おまえすごいな・・・。」

「でしょ。停止解けたら謝罪会見するわw」

若干引きつつも、その大胆な行動力には舌を巻いた。私の枠で「ナリの配信終わったら、私も配信始めるわ。そのとき服脱いでみるw」とコメントをしていたのだが、まさか本当にやるとは。

タトゥーが入った華奢な右腕を、着ているTシャツの内へ忍ばせ、もう片方の手でフライパンを持つ。いきなり乳首が見えないようフライパンで隠しながら、慎重に慎重に服を脱いでいく。へそを通り過ぎ、みぞおちが見え始めた。

「乳首見えてないよね!?乳首見えてないよね!?」

Tシャツで顔が覆われいるため状況が確認できないSHIKIMIが焦り始めた。これに対し、「まだ見えてないよ!」というコメントが殺到する。朝4時半にもかかわらず、20人ほどのリスナーが集まってきていた。いけ!いけ!とヤジも飛ぶ。といっても本人にはすべて見えていないのだが。

乳首を晒さずTシャツを脱ぐことに成功した彼女は、フライパンを置いて片手で胸を隠しながらストロング缶を飲み始めた。なんだこれは。どこからともなく集まってきたギャラリーから歓声を浴びながら、ドヤ顔で酒をゴクゴク飲んでいくその姿はとにかく異質だった。自分とは違う世界に住んでいる人だと思った。呆れながらも驚嘆という珍しい感情が心に出現するのを感じた。

ポロリ待ちの変態たちがのさばり始めたところで、脱衣配信は強制終了。画面はプツっと切り替わった。これはSHIKIMIの初配信でもある。ただ脱ぐためだけに配信した、伝説の女のとして私の記憶に深く刻まれたのだった。

 

SHIKIMIはYoutuberというタグに誘われてきてくれた、九州に住んでいるタトゥー彫師だった。目元ばっちりのド派手なメイクにほぼ白色の金髪、腕にがっつりとタトゥーの入った、ビジュアル系ガールズバンドっぽい見た目の24歳。こりゃまた癖が強そうなやつが現れたなあと思った。

「どんなYoutubeやってるんですか?」

「主に恋愛心理学を扱った動画を作ってます。性欲が強い男の特徴とかメンヘラ女子がモテる理由とか。」

「面白そうなコンテンツですね!人気ありそう!」

「いやいや。ここでは偉そうにYoutuberって名乗ってますけど、実際は再生回数が平均3桁代の底辺なんです。」

「そうなんですか!ちょっと今から見てきますね!」

今ですか!?と突っ込む間もなく彼女のアイコンは画面から消えた。

「あの人、たぶんマジで見に行っちゃったよ。」

他のリスナーさんたちに向かって呟く。どんな感想が返ってくるんだろう、厳しい批評だったらいやだなあ。大して勉強してない頃に作った動画ばかりだから内容もだいぶ浅いし。期待値高そうだったから落胆されたら辛いなあ。なんてうだうだ話をしていると10分ほどでSHIKIMIは戻ってきた。


「題材がよくて編集も工夫されてて面白かったです!」

第一声がそれだったので安心した。

「でも。」

「でも?」

一瞬の間。一気に不安になる。

「もっと時間を延ばせるし、もっと面白くできる。」

彼女は続けた。

「動画の中で、成生さんちょこちょこ演技入れてるじゃないですか。メンヘラ女子の真似してみたりとか。あれの尺を延ばすだけで内容もだいぶ濃くなるし、それだけで動画1本分いけますよ。」

動画の途中で、こんな男はやばい・こんな女はやばい、を分かりやすく表現するために1行の台詞のみの演技パートを取り入れていた。ブライアンさんのように一人芝居が上手ならまだしも、私にはそこまでの技術がない。編集で声質を変え背景を変え、アクセント程度なものに仕上げることしか出来なかった。

「確かに・・・。でも一人芝居できるほど技量がないんですよ。」

「じゃあ誰か一緒にやれる人いませんか?もしいそうなら教えてください。私、編集しますよ。」

「え?」

「東京には出張で月2回ほど行くので、タイミング合わせてくれれば撮影もやりますよ。」

「え?」

「実は彫る以外に某有名Youtuberの編集の仕事もしてるんで。」

「え?え?」

「この企画面白そうなんで私も1枚嚙みたいなあと。もしよければ、ですけど。」

 

胸が高鳴っていた。何か大きなことが始まる・・・!そんな予感がした。

ライブ配信でチーム誕生の瞬間を見れるなんて!」
「いい出会いじゃん!SHIKIMIちゃん、成生くんを頼んだ!」
「すげええええ!!!おおおおお!!!」

居合わせたリスナーの皆も興奮を隠せない。コメント欄が爆速で盛り上がっていく。

 

「いやいや!待って待って!もう1人見つけないと始められないから!」

彼らを落ち着かせながらも、自身の鼓動がどっくんどっくんと激しさを増していくのを感じていた。宣伝のつもりで始めたライブ配信でまさか仲間が増えるなんて。ドラマティックな展開を前にして今にも踊りだしたい気持ちに駆られた。

 

あと1人。あと1人集めればこのYoutubeプロジェクトはスタートできる。
実をいうと、この話が持ち上がった時点で、声をかける人物はもう決めていた。ライブ配信をきっかけに結成されたチームなのだから、もう1人も「X」で知り合った人にしたい。

きっと彼ならば素晴らしい作用をもたらしてくれるだろう。まだなにひとつ確定していないのに、私には明るい未来が見えていた。

 


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