「桜の樹の下には死体が埋まっているんだって!」と若者たちは燥いでいた。

桜の樹の下には死体が埋まってるんだって!」

 

満開を過ぎた桜を見ながら、若者たちはウキウキと燥いでいた。

深夜1時を回ったこの大きな公園は閑散としていて、昼間の花見客が嘘のようだった。遠くのほうにちらほらと人影が見えるが、きっと彼らも夜の花見に来たのだろう。というか、花見を口実にただ野外飲み会を開きに来たのだろう。このご時世であろうとおかまいなしだ。まあ、僕らには関係ないことだけど。

夜は僕らのものである、という認識はもうすでに古き認識となった。朝も夜もいつだって彼らは活動している。だから夜はみんなのものでいい。夜桜だってみんなのものでいい。

 

散り落ちてくる桜の花びらをつかむ遊びを幼いころよくやった。すばやく腕を伸ばすと、その風圧で花びらは逃げてしまう。そんな動作を数回繰り返すが、結局取れずに地面に落ちる。妙に悔しさが募る遊びだった。

もうすでに葉桜が目立ち始めている。花びらはなかなか落ちてこない。

 

桜の樹の下に屍体が埋まっていようがいなかろうが、桜が綺麗なことに変わりはない。こんなに美しいのだから、屍体が埋まっている?死んだ人間がそんな力を持っているわけないじゃないか。彼らが「綺麗だ!」と言わなければ桜はただの植物でしかない。僕らがやっているのは桜を咲かせることであって、綺麗なものとして認識してくれるのは彼らなのだ。神秘的な感じにしてくれるのは嬉しいけど、なんだかおこがましいような複雑な気分になる。

桜の樹の下には死体が埋まっている!なんていちいち騒ぐ必要はない。生と死の風流に酔う必要もない。君らは花見酒を呑んでいるだけでいい。

その姿を見ているだけで、酒の味くらいは思い出せる気がする。

 

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