【コロナ渦で失業したので、「ライブ配信」を毎日平均6時間やりまくってみた8ヶ月のこと】vol.13

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【コロナ渦で失業したので、「ライブ配信」を

毎日平均6時間やりまくってみた8ヶ月のこと】vol.13

 

「X、やめんといてな!」

黒い瞳を潤ませながら、ちゃん子は言った。

「成生いなくなったらめっちゃ寂しいやん!せっかく仲良くなったのに!」

「いなくならないように頑張るよ。」

「ホンマやで!Youtubeも応援してるしな!これからはムササビと一緒にやるんやろ?」

「うん。誰かと一緒にやることになるなんて、配信始めたころは思いもしなかったよ。」

「いやあ、しっかし、ホンマにすごい展開やなあ。尚更やめたらあかんやん!」

 

ムササビを仲間に引き入れるのは拍子抜けするほど簡単だった。

「やろうぜ!」「できるかな・・・」「できるよ!」「わかった!」

これだけのやり取りで彼の加入は決まった。SHIKIMIとムササビには私の配信で顔合わせ(アカウント合わせと言った方が適切なのかもしれないが)をしてもらい、漠然と互いを認知してもらった。

イケイケ系のギャルSHIKIMIと頼りなさげな優男ムササビの性格は全く正反対である。以外にもこれがいい化学反応を起こしていて、互いの凹凸を上手く補っているように見えた。生配信上裸女と引け腰のエースはので、SHIKIMIはこれは私としてはラッキーな組み合わせだ。似た者同士は気が合いやすいけれど、新しい企画を始める際には違う個性が集まっていた方がいい。異なる目線が多いほどあらゆる可能性に気が付ける。

 

我々はラインのビデオチャットにて今後の計画を立てることが多くなった。

 

「以前成生がYoutubeにアップした、『こんな女は嫌われる』をアレンジして撮影したいと思ってるんだけどどう?」

「うん、SHIKIMIが編集しやすいならそれでいこう。いいよね、ムササビ。」

「俺はなんでもいいぜ!」

オーケーと頷きながらSHIKIMIはメモを取っている。

「動画は演技がほとんどを占めた芝居形式になるんだよね。ってことは、俺とムササビのどちらかがメンヘラ女役をしなきゃいけない・・・?」

「その通り。ばっちりやって頂きます。」

ムササビの顔が少しひきつった。そしてまだ配役も決まっていないのに、まじかああああとクリーム色のソファーに倒れこんだ。蟻のような小さい声で「俺だよなあ」と呟いている。

「よろしく!」

「がんばって!」

ソファーから体を起こし、カメラに向き直った急造個性派俳優は「頑張ります。」と力なく応えた。よかった俺じゃなくて。彼の愛らしい撫で肩を見てホッとする。

私は腕を組みながら、今後のスケジュールについて話を進めた。

「で、問題はいつ撮影するかだ。俺たちは都内だからすぐ会えるけど、肝心のSHIKIMIは九州だしな。」

「あ、今週だったら金曜日からそっち行けるよー。みんなどうせ暇でしょ?」

「SHIKIMI、あんたの行動の速さには脱帽するよ。」

「ほんとほんと。」

「で、みんな行けるの?」

「俺は週末は基本引きこもってるから余裕で空いてるぜ!成生は?」

一旦テレビ画面を閉じスマホのカレンダーを確認した。今週の金曜日は5月29日だった。「X」継続か否かかの運命が決まる3日前である。

「空いてるんだけど、撮影終わったら終電あるうちにすぐ帰るね。例の日まで時間がなくて。打ち上げ参加できずすまん。」

「ああそれなら心配しないでいいよ。ホテル、2部屋取ろうと思ってたところだから。撮影して、終わったらちょっと休憩して、そのままそこで深夜配信しちゃいなよ。」

会社の経費で落とせるし、と付け足して悪戯っぽく笑った。

「何から何までありがとう。あなたは神だ。」

「いかにも。かたじけない。」

胡坐をかきながらムササビも深々と頭を下げる。

「地味に成生の枠に私のファン多いし。いいじゃん!コラボ配信していっぱいアイテム投げてもらお!私も投げるし。そしたらもう絶対安泰でしょ。」

そうなのだ、SHIKIMIにはファンが多い。というか彼女目当てでやってくるリスナーも多々いる。過激な下ネタをどかんどかんと投下して笑いをさらい、また羽振りもよく1000円以上のアイテムを鳩にパンくずをやるかのようにぽいぽいと投げていく。初見リスナーの恋愛相談にも積極的に参加してくれるので、彼女の存在は私の枠にとってかなり大きいものだった。

謎に包まれたタトゥーだらけの金持ち金髪ギャル。配信したのは上裸事件の1回きり。そんな彼女を仲間にできた自分はかなり運がいいのだと思う。

 

「じゃあ、当日の流れはあとでグループに流します!ごめん、仕事戻るわ。お先。」

SHIKIMIは一足早くビデオチャットから出て行った。時計を見ると時刻は23時を指しており、こんな時間まであいつもお疲れさまだなあと男2人でその場にいない人間を労わりあった。

「SHIKIMIって何者なんだろうな。」

ムササビがお茶のペットボトルを手に取りながら質問とも取れぬ発言をする。初めての出来事に緊張してきたのかゴクゴクゴクゴクお茶を飲んでいく。

「さあ。彫師・動画編集者ってこと以外はわからん。」

「だよなあ。出会ったことないよあんな人。時折こわくなる時あるもん。何も言えねえよ。」

「わかる。あいつが下ネタギャグで暴走して、その結果変なやつらがわらわら湧いてきても文句言えねえもん。配信をプロデュースしてもらった恩義もあるし。」

「え、なにそれ?」

 

実は、SHIKIMIが私の枠に来るようになってから爆発的にリスナーが増え、投げられるアイテムの平均額も高くなったのである。配信状況は驚くほど好調になり、6月1日までにはD+どころかCランク帯に飛び乗れそうなほどだった。今まで見てきた、閑古鳥の声が響き渡っている景色は全くと言っていいほど見なくなった。

これは彼女が夜な夜な説いてくれたアドバイスのおかげなのである。

彼女は私を人気ライバーにするために、いくつかの改善点を提示した。

 

【vol.14】に続く。