【コロナ渦で失業したので、ライブ配信を毎日平均6時間やりまくってみた8ヶ月のこと】連載記事vol.7

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【連載記事vol.1】↓↓↓

takamichi-nariu.hatenablog.com

 

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智絵里さんは配信で顔を出していなかった。

机の上には、ゆらりゆらりと炎を踊らせるキャンドル、かわいらしいアメジストクラスター、中央には「インスタライブで、タロット占いやります!!おうち時間を楽しんでくださいね!」と書かれた卓上メモが置いてある。ゆったりと流れるオルゴールのBGMが落ち着いた空間を際立たせている。

素敵な雰囲気の配信画面だったが、それよりも私は智絵里さんの顔を拝みたかった。プロフィール写真のお顔が画面の向こうで表情豊かに動いている。そんな様子を想像して虚しく心を躍らせるしかなかった。

智絵里さんのファンと見受けられるリスナーも何人か来ていた。声は発してくれるので、実質ラジオみたいなものである。ラジオDJにメッセージを読んでもらうような楽しみが智絵里さんの配信にはあった。低音の効いたキレのあるボイスは妙な安心感がある。

 

「これから近所の川まで散歩してきます。その川には鯉が泳いでいるんですが、彼らをずっと眺めてると、陰鬱な気持ちが少し癒されるんですよ。」

なんてことのないメンヘラコメントを打ち込んでいく。

「へえ、よかったねー。そのままもう鯉になっちゃいなー。」

相変わらず平坦な返事である。

「なんか冷たいじゃないですか。」

「そんなことないよー、鯉になっちゃえば楽じゃん。」

「まあ、あんなふうに生きたいなァって思う時はあるけど・・・。」

「成生くんさ、毎日相談聞いて、いろんな話に付き合って、ぶっちゃけしんどいんでしょ?」

 

バイト休業で収入もなく、Youtubeの登録者もなかなか伸びない。見返りのない相談ばかりして、先行きの見えない日々を過ごし続けるのは正直辛かった。

 

「たまには口パクパクさせて無になったほうがいいよ。いつも何か思いつめてたらつぶれちゃう。わかるでしょ?だから鯉になっちゃえって言ってんの。」

 

智絵里さんの例えはとてもユニークだった。そしてそれはとてもわかりやすく、そっけないながらも優しさがこもっていた。この人に自分の脆いところを見てほしい。この人が私を助けてくれる。この人にもっと頼りたい。こんな感情、自分でも気持ち悪いと思うほど智絵里さんに私はぞっこんだった。

 

「ありがとうございます!散歩してリフレッシュしたら、今日も配信始めようと思います!またお邪魔しますね!」

彼女のアドバイスも然りだが、むしろその声が聞けただけで私の心は救われていた。『THANK YOU』アイテム、その他小さなものをぽんぽんと投げて彼女の枠を後にする。

 

 「はーい、もう来なくていーよー。あ、アイテムありがとね。」

彼女の声が、今日も背中を押してくれる。

 

 

                              ***

 

 

「X」でまさかの再会を果たした。

24歳の頃に「キャラメルボックス俳優教室」という舞台俳優養成所に通っていたのだが、その同期生であるTも「X」で配信をしていたのである。

Tは1歳年上の女性で、同期の中でも数少ない同年代組だった。彼女は私より数か月前からライブ配信をしていたとのこと。出演舞台の宣伝ツールとして使用したのがきっかけらしい。ライバーランクはCランク。Cランクというのはライバーの最初の関門であり、ここを越えられるか越えられないかで人気度が計れる。ちなみに私はまだEランクであった。

 

「久しぶりじゃん!成生も始めたんだね!」

稽古で散々聞きまくった声。養成所を卒業して以来一度も会っていなかったから、懐かしさに心が上ずった。

 

「わああああ!めっちゃ久しぶり!元気だった?」

「元気だよー!っていうか成生、俳優辞めちゃったんでしょ?今はYoutuberやってるんだよね?」

「そうだよー!ぜひチャンネル登録してくれ!」

 

もはやラインでするべきコミュニケーションである。リスナーが多いので、リアルの知り合いがだらだらと喋り続けるのもよくないだろうなと思いつつ、ついつい長居してしまった。

ちなみに、初めて課金してアイテムを投げ込んだのは彼女の枠である。やはりリアルに勝る関係性はないと、アイテムエフェクトで画面を煌びやかにしながら思った。人との交流が少なくなってきてしまったこの状況下で、どんな形であれ知っている誰かと関われるというのは有り難かった。

友達の喜ぶ顔は、やはり嬉しいものである。

 

Tの他にも配信に勤しんでいる同期生を何人か発見した。

公演が延期され、最悪中止され、現状舞台役者として活動できない以上、いつか来る再開の時まで余念なく自身の宣伝をし続けるしかない。彼ら彼女らは精力的にライブ配信を行い、必死に自分を売り込んでいた。バイトが無くなった!とぎゃんぎゃん喚いてる私とは覚悟が全く違うのである。

彼らの配信に時折足を運びながら自身の配信を省みた。なかなか人が来ないと悲劇のヒーローのように演じているのは単なる逃げなのだ。私も彼らのように夢を追っている身だけど、そのためにやっていることは彼らの数分の1でしかなかったのだ。なんとなく長時間配信して、恋愛相談をして、流れでチャンネル登録を促す。自分がいる場所を広くするにはこれだけでは足りないのだ。

頭を使って、もっと必死にならなければならない。今は、アイテムがなかなか貰えないと、リスナーのせいにして自分を正当化しようとしているだけ。ただ恋愛相談に乗ってもらうだけなら、友人にだって出来る。誰でもいいわけじゃなく「私に」相談したい、そう思ってもらえなければ意味がない。来てくれる人を増やすために、何かしらの工夫を凝らす必要があるのではないか。

陳腐な内容で埋め尽くされた自身のYoutube動画を見ながら、今一度自分に問うてみるのだった。

 

【vol.8】に続く。


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