【コロナ渦で失業したので、ライブ配信を毎日平均6時間やりまくってみた8ヶ月のこと】連載記事vol.8

 

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【連載記事vol.1】「ライブ配信」を毎日平均6時間やりまくった、コロナ渦8か月の日々をギリギリまで激白してみた。↓↓↓

takamichi-nariu.hatenablog.com

 

 

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やらなきゃいけないことをやらなくていい時間が無限にあった。厳密には緊急事態宣言が解けてバイトに復活するまでだったけど。2020年の4月5月は、生きてきた28年の中でもしかしたらある意味1番自由だったかもしれない。

 

もちろんYoutube動画の制作に没頭できる期間でもあったが、私はむしろファンやチャンネル登録者を増やすことに時間を費やした。昼過ぎに布団から這い出て、16時ころから2時間ほど配信し、夜は眉唾な記事ばかりの恋愛心理学サイトで知識を蓄える。そして日付が変わる24時から朝4時頃まで、がっつりノンストップで画面に喋り続ける。一般的にライブ配信のゴールデンタイムは20時~24時と言われており、そこが最もリスナーを集めやすいのだが、同時に超激戦の時間帯にもなる。多くのライバーがこぞって配信を開始し、リスナー争奪戦を行うのである。

もちろん、私のような弱小ライバーは全く勝負にならない。一応何度かゴールデン参入を図ってみたのだが、驚くほど誰も来なかった。その事実が小枝並の心には堪えたので深夜活動に専念することとした。ユーザーが減って徐々に落ち着いてくる24時以降を狙って、私は配信していた。

 

ゴールデンタイムに「X」を一切開かない訳ではない。恋愛心理学サイトに飽きたら、リスナーとして「X」の世界に飛び込んでいた。他のライバーの枠に足を運び、仲良くなることで、こちらの配信にも来てもらおうという「営業」をしていたのである。そこでは基本的に長居はしない。知り合いを増やすのが目的なので、15分ほど経ったら退散して、他のライバーの元へ行く。

このように、配信枠から配信枠へ梯子することを「枠回り」という。趣味が合って盛り上がったり、ライバーが可愛かったりしたら余裕で1時間以上滞在してしまうのだけれど・・・。

その枠回りが功を奏してか、常に平均4人以上が滞在してくれている状態になった。トータルすると、1日10人以上15人未満の人が来てくれるのである。6時間やって4、5人しか来ない過疎枠の時から比べれば大きな進歩だ。それに伴って、配信に対するモチベーションも上がった。自己顕示欲が満たされるというのは大きい。

 

京都出身ほんわかライバーぷにぷに、飲んだくれダンサーライバーWIK、ハイテンション関西弁ライバーちゃん子、車中ライバー雪ノ下ちゃん、酒やけホステスライバーひかりさん、そしてたかちゃん ・・・etc。

20代女子ライバーの来訪が大きく目立ち始めていた。他にも千草ちゃん、ユサちゃん(まだ10代だったが)、同期生のT、相談後に常連になってくれたFUMIさんも来てくれる。

もちろん、自分より少し多く経験を積んでいらっしゃるオトナの女性&恋愛心理学知りたいぜ系男性陣もいるのだが、当時のリスナー層は20代女性が圧倒的に多かった。

純粋無垢なるエロ心の赴くまま、数多の年下美女配信に足を運んでいたからこれは至極当然のことなのであるが。

 

リスナーの方々は、大概どこかぶっ飛んでいたけれど皆さん優しい人ばかりだった。美女枠を行脚しまくってるただのエロニートなのに、「心理学やってる頭の良い人」(?)として慕ってくれた。

それに応えたくて(博学っぽさを演出したくて)、恋愛心理テクニックを伝授するなどとにかく付け焼刃の知識を披露しまくった。具体的には、メンタリストDaiGoさんがYoutubeで喋ってる内容をノートにメモしまくって要約しただけの簡単なものなのだが。言ってしまえばただのパクりである。己の無知蒙昧さを隠して、「心理学やってる人」を演出するにはこれしかなかった。

にも関わらず、「わかりやすい」「おもしろい」そのような有難いお言葉を何度も頂いてしまった。オリジナル内容じゃないから申し訳ないとは思ったけれど、自分流にアレンジして解説するようにはしていたので目をつぶってほしいというのを言い訳として残しておく。(ごめんなさい)

 

ちなみにこのパクりミニ講義は、何かを教えることの楽しさを味わい始めるきっかけとなった。当時はまだ塾講師をやっていなかったので、これをやっていなかったら私は先生にはなっていなかったかもしれない。

空いてる時間に動画を見まくり、どうせならばと心理スキル教本も購入し、ひたすら知識量を増やした。それに伴って答えられる質問の幅も広がっていった。気が付けば、あんなに無理矢理続けていた配信もそれなりに楽しくなってきていた。

もっと勉強しよう、もっと伝えよう、このような気持ちを抱けたのはみんなのおかげです。ありがとう。そしてメンタリストDaiGoさん、素敵な動画をありがとうございました。あ、有料会員になったのでもう少しお世話になります。すみません。

 

 

                                     ***

 

 

頻度は減ったものの、智絵里さんも時折遊びに来てくれていた。だが、以前のように彼女のアイコンを見ても、テンションはあまり上がらなかった。むしろ、なにか説教されるのではないかと若干身構えてしまうようになっていた。

今までは智絵里さんに、わんさかダメ出しされたら「浅はかでした!すいやせん!」とおバカキャラで通すこともできたのだが、「先生」スタイルに変容しつつある現状で、そのような雰囲気を醸し出すのはあまり気が進まなかった。

 

「こうしたほうがいいから!」

「なにやってんの、そんなのだめよ!」

 

有難かったアドバイスも、自分の配信ではバランスの悪いスパイスに見えてしまう場面が出始めていた。DMでやりとりをしている最中叱られるのはいいのだけれど、公共の場でやられるとあまり体裁が良くなかった。

こうなってしまったのは智絵里さんが悪いとか、自分が悪いとか、そういう次元の話ではないのだろう。短期間で多くの人と交流を重ねた結果、一気に自分の住む水の色が変わった。ただそれだけだったのだ。

 

「なんであの人って上から言うの。」

初期の私と智絵里さんの絡みを知らない方から、あまりいい心地がしないと言われてしまった。みんなの表情は見えないけど、全体の雰囲気を微妙にさせている時があるというのは何となく分かっていた。

私が作っていた配信の形はひとつのクラスのようなもので、個人と個人のやりとりだけで永久に上手くやれるようなパーソナルなものではない。ぼやけた笑いで不満の声をごまかしていたけど、それがいつまでも続けられるわけがなかった。

 

「ちょっと言いすぎですよ。」

どんな話題でこの言葉を彼女に放ったのか、今や全く思い出せない。すっきりしたいような、申し訳ないような、自分を悪者にしたくないような、曖昧な感情があったことばかり記憶に残っている。

すかさず智絵里さんは反論してきた。勝気な方だから、しっかりと遠慮なく刺してくる。他のリスナーさんは黙って様子を伺っていた。常連リスナーさんと口論になったのは初めてだった。

 

「20代の若い女の子がたくさんいるんですから、そういう態度はよくないですよ。智絵里さんとは違うんですよ。」

 

智絵里さんが並べた、感情と理性が混じったコメントを一蹴するように私は強く言い放ってしまった。不穏な空気に動転して適切な言葉が選べなかった。下手したら他のリスナーさんまで失いかねない最悪の発言で攻撃をしてしまった。

「あなたは異物なのだ」と排除したかったわけではない。過疎が続く時期に支えてくれた人だし、時に叱ってくれる彼女が好きだった。きっと智絵里さんなら分かってくれるはずという甘えがあったのだ。そしてその気持ちが伝わると思ったのだ。

 

「あー」

「わかった」

「もういい」

 

すぐに謝罪をしたけれど、もう遅すぎた。

3言コメントを残すと、智絵里さんは私の配信から出ていった。するっと消えていなくなった。他のリスナーさんから心配の声が上がったが、「大丈夫、問題ないです。」とぎこちない笑顔を取り繕って画面に向かうのがやっとだった。心臓の鼓動が早くなり、額から汗がたらたらと流れてきた。じっとりとした重たい空気が朝まで残る、気持ちの悪い配信だった。

 

翌日、TwitterのDM画面を開くと、「今後、この方にダイレクトメッセージを送ることはできません」という文字が表示されていた。胸部をまるごと掴まれたようなショックが走った。もしやと思って「X」を起動してみると、フォロワー及びフォローの中に占い師 智絵里という名前がなくなっていた。頭の中の景色が白く染まり、鈍い痛みがジーンと心を駆けていった。フローリングにストンとへたり込んだ私を温度のない虚無感が包み込む。画面に映し出された現実を受け止めきれず、私はただただ呆然と壁を見つめ続けるほかなかった。

 

以来、智絵里さんは現れていない。

 

 

【vol.9】へ続く

 


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