【コロナ渦で失業したので、ライブ配信を毎日平均6時間やりまくってみた8ヶ月のこと】連載記事vol.10

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【連載記事vol.1】「ライブ配信」を毎日平均6時間やりまくった、コロナ渦8か月の日々をギリギリまで激白してみた。

takamichi-nariu.hatenablog.com

 

【前回記事vol.9】はこちら↓↓↓

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WIKちゃんは、小悪魔的なあざとい表情とタメを作った可愛らしい声でリアクションしてくれる、イマドキっぽい感じ(?)の女の子ライバー。

普通にしてれば可愛いのに。そう思いながら幾度となく彼女の配信を訪れた。キュートなアイテムリアクションで数多の男性ライバーを虜にし、着実にファンを増やしていく。時折白目を向いてみせるなど、変顔もチャーミングだ。どのような発言をしてよいのかわからず、黙って画面を見ているだけのリスナーにも積極的にコミュニケーションを取っていく。まさにお手本のようなライバーである。

だが、深酒しているときのWIKちゃんはとんでもないヘンテコ女だった。

 

深夜3時半過ぎころになると、WIKちゃんはよく私の配信にやってくる。

「めちゃくちゃ酔ったわw」

「やば」

「風呂までが遠い」

「爆笑」

来て早々コメントの連投である。かなりベロベロのようだが、スマホの文字打ちスピードはシラフの私よりも全然早い。電光石火の連投で、一瞬にしてコメント欄がWIK一色に染まる。

「ほんと、お前飲みすぎだよ。踊りに支障出るんじゃないの?」

彼女はダンサーだ。先生もしている。

TikTokInstagramにはダンス動画が複数上げられており、どれもキレッキレで美しく格好いい。しかし酔っぱらうとただのヘンテコである。ああ、教え子が見たら泣くぞ。

「やばいよね、あたし」

「まじむり」

「爆笑」

とにかく最後に爆笑とつけたがる。20歳過ぎの女の子の間で流行っているのだろうか分からないが、とにかくWIKちゃんは今まで出会ったことのないタイプの人種だった。瞬間コメント数は多いのに、滞在時間はリスナーの中で最短だ。

「ファルス」

ジブリ作品で有名な破壊の呪文に似た言葉を唱えて、WIKちゃんは嵐のように去っていく。もちろん、ファルスはおぞましい意味ではない。比較的平和主義の彼女がそのような発言をすることなどない。

ファルス、それはラテン語で男根を意味する。正確には、平常時の男根ではなく、いきり立った男根という意味である。「X」では、ち〇ち〇、ぺ〇ス、等の言葉はコメントすることが出来ないので、私の枠では別の名称で呼ぶことにしていた。

そしてそれを誰よりも早く暗記しすぐに使用することが出来るWIKちゃんはめちゃめちゃ優秀である。インプットしたらアウトプット。この学習姿勢を生徒たちにも見習ってほしいものだ。

もちろん、ヘンテコは見習わなくていいけど。

 

                                     ***

 

雪ノ下ちゃんは、恋愛相談後に常連リスナーになってくれた女の子だった。知り合った当初は配信していなかったが、アイコンに映る銀髪ショートカットの彼女は絶対に配信向きだとこっそり思っていた。かわいくて愛嬌があって頭の回転も速い。他のリスナーさんの発言も拾って、場を形成してくれる気立ての良さも魅力。「いつか配信を始めるつもり」と言っていたので、その際は絶対に駆け付けようとこちら側もフォローしていた。

そして訪れた配信の日。待ってましたとばかりに私は「X」の世界に飛び込んだ。おお、既にだいぶ盛り上がっている!画面には耐えることなくアイテムエフェクトが表示されていた。

「あ、成生さん!ありがとうー!」

静止画ではない、動く雪ノ下ちゃんがこちらに向かって手を振ってくる。コメントやプロフィールのイメージしかない人が、動画でそこに存在しているというのはなんだか不思議な感覚である。

「ありがとうー!」

雪ノ下ちゃんの隣にはもう1人女の子がいた。同じく笑顔で手を振ってくれている。

「この子は友達の林原ちゃん!たまに一緒に配信するつもりなの!」

「こんにちはー、林原でーす!」

林原ちゃんと紹介された女の子がぺこっと頭を下げる。この子もとっても綺麗な顔をしている。ライブ配信集客において、「美女」というステータスは大変有利だ。美女を拝む為に「X」をしているという人はかなり多い。しかもそれが2人いるのだから、単純に考えると集客効果はその2倍ということになる。

だが、この2人はルックスがいいだけではない。特筆すべきはコンビネーションだ。彼女たちの配信では、素晴らしいシンクロナイズを見ることが出来るのである。

たとえば、アヒルが描かれたアイテムを彼女たちに投げてみると、

「ガーガー。ガーガー。ガガーガー!」

とタイミングよく同じ動作でアヒルの真似をしてくれる。何度も何度も練習したのだろうか、完全に息がぴったりだ。あのアイテムリアクションなんだっけ、ということもなくスムーズに行われる。もはやある種のショーだ。

また、配信場所の選択も非常にクレバーだった。アイテムリアクションやパフォーマンスはある程度派手なものが求められるので、それこそそれをやれるだけの環境が必要になってくる。そういう理由もあってか(勝手な憶測だけど)、彼女たちは車の中で配信をしていた。確かに車内なら隣の住人から苦情を受ける心配もなく、多少大声で歌ったりしても問題ない。完璧な環境と計算された配信力、流石と言う他ない。

 

                                     ***

 

雪ノ下ちゃんたちの配信はもっと伸びるのだろう。感心しつつ、応援しつつ、嫉妬とも少し違う、ひび割れた感情が自分の中で渦巻き始めた。キラキラと輝きを放つ彼女たちの枠と比べて、地味すぎる自分の配信風景・・・。

はたしてこのままで大丈夫なのだろうか。ちょこちょこと人は来てくれるようになったけれど、如何せんアイテムが飛ばない。身銭を切るだけの価値が自分の配信にはないということだろうか。恋愛相談をしてきた人数も80人ほどになった。講義を楽しみにしてくれているリスナーもいる。だが、やはりどうしても目に見える結果が欲しい。

思うように成果が出なくて、やってきたことが正しいのか分からなくて、YouTubeで動画を出すたびに自分の必要性を疑い始めていた。できることなら、ライブ配信を通じて自信を付けたい。そんな気持ちが仄暗い心の底から弱々しく浮き上がってくる。

同時期に始めたライバー仲間の配信が盛り上がっていくのを横目に、自分だけ取り残されたような気分を自虐的に味わっていた。エゴで埋め尽くされた被害者意識に押しつぶされそうになりながら、私は配信を続けていく。

 

 

【vol.11】へ続く。

 



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