【コロナ渦で失業したので、ライブ配信を毎日平均6時間やりまくってみた8ヶ月のこと】連載記事vol.9

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【連載記事vol.1】「ライブ配信」を毎日平均6時間やりまくった、コロナ渦8か月の日々をギリギリまで激白してみた。↓↓↓

takamichi-nariu.hatenablog.com

 

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緊急事態宣言が延長されるのではないか、という憶測がSNSで飛び交い始めた。同じく飲食店に勤務する友人たちやイベント系の知り合いも、今後政府がどのような方針を示すのか分からずおろおろしているようだった。私自身ライブ配信をやりながらどうにかニート生活を乗り越えてきたが、さすがに2ヶ月目はまずい。

 

「仮に延長になっても、ランチとかテイクアウトはやりますよね?多少の人手はいりますよね?」

バイト先の店長に期待を込めてラインしてみたのだが、「一応店はやるつもりだけど、時短営業になっちゃうから人件費の関係でバイトは誰も入れられない。ごめん。」と復帰不可の返信が来てしまった。

いやあ困ったなあ。無収入息子へ向ける両親の眼差しを想像して、小さく頭を抱えた。取り急ぎウーバーイーツで収入を得ようと思ったのだが、免許証・マイナンバーカードを持っていないためそもそも応募資格がなかった。ああ、狭かった肩身がさらに狭まくなっちゃう。

 

そんなこんなで緊急事態宣言延長が決定し、同時にニートライバー生活の継続も確定した。ニュース速報を見た直後は「どうしよう困ったなあ、金がないなあ、やべえなあ。」と周囲にボヤいていたのだが、徐々に「実はこれ、運気キテるんじゃ?」と思うようになった。バイトが一切できない状況を言い訳に、ライブ配信をしまくってファンを増やしまくれる好機!だと捉えることにしたのだった。やろうと思えばコンビニやスーパーなどでバイト出来るはずなのだが、テキトーに理由を付けてひたすら目を背け続けた。両親から勧められた仕事もすべて拒否した。仕事もしないで、あなたは夜な夜な一体誰と喋ってるのと母に言われたが、これも仕事のひとつだと苦し紛れに返答した。

 

 

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毎晩ポッカレモン入りの焼酎水割りを飲み、リスナーのみんなとお喋りしながら朝を迎える。メンタリストDaiGoさんに影響を受け始めていたので、私もDaiGoさんのYoutube動画と同じように立ちながら配信するスタイルに切り替えた。よし、このままミニ講義を続けて「X」界のDaiGoになってやろう。そんな恥ずかしい野望をうっすら持っていたことは、今となってはかなりの黒歴史である。

 

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ムササビは「お酒好き」のタグ検索をしていて知り合った、私より1つ歳上の男性ライバーだった。と言っても毎週金曜日の20時~21時しか配信していないので、ライバーというよりリスナーと紹介した方がいいのかもしれないが。

 

「はじめまして。恋愛心理学アルチューバーの成生です。」

「恋愛心理学!?アルチューバー!?なんかすごい肩書っすね!」

彼はグイっと画面に顔を近づけてきて、立て続けに質問を続けた。

「恋愛心理学ってことは・・・モテる方法とかご存じなんですか?え、めっちゃ知りたいっす!フォローします!今度遊びに行くので教えてください!っていうか、アルチューバーってなんですか?Youtuberの亜種ですか?」

「一応、恋愛心理学講義的なモノを配信でやってます。恋愛相談も受け付けてるのでもしよかったら!酒好きYoutuberなので、アルチューバーと名乗らせてもらってます!」

「そうなんですね!Youtuberもやってるんですね!いやいやすごいっす・・・夢がありますねえ。ああ俺もやってみたいなぁ。」

「ぜひ!やりましょうよ!」

「できるかなあ。」

ムササビは太い黒縁眼鏡を外してハンカチで軽くふきながら、自信なさげに眉毛をハの字に曲げた。絶妙にダサい表情なのだけれども、なんだか愛嬌のある人である。しばらくすると彼の顔が真っ赤になった。酒はそんなに強い方ではないらしい。

「自分、酒は好きなんですけど、めちゃめちゃ弱いんすよ。」そういってちゃぽちゃぽと音を立てながらストロング缶を振る。他のリスナーもそれを見てやんややんやと彼をいじっていく。

 

アイテムを頂き、高ランクを目指す数多のライバーとは全く違ったライブ配信の様だった。「別にアイテムもいらないし、宣伝したいことも特にない。ただみんなと喋れればそれでいい。」そう語る彼は異質だった。今まで何かしら目指すものがあったライバーばかり見てきていたから、このような純粋な気持ちで配信をしている人は新鮮に映った。そして、集客に力を入れているわけでもないのに、その程よい情けなさと人の好さに惹かれてリスナーが続々と寄ってくる。みんな滞在時間も割と長い。求心力のある人だなぁと素直に思った。ここまでディスったり褒めたりしたが、ようするにこの男ムササビは、めちゃくちゃいいやつなのである。

 

自粛期間で女の子たちと会えず、溜まりに溜まっていたエロ心が私を女性配信者の元へ走らせていた。そのため、主となる交流が女性ライバーとばかりになっていた。

だがしかし、結局のところ男性と話すのがやはり1番落ち着くのである。変にカッコつけることなく、自然体で談笑できるからだ。これは現実でもライブ配信というバーチャル世界でも同じだ。ムササビはほぼ毎晩私の枠を訪れた。そしてあくる日もあくる日も桃色トークに花を咲かせたのであった。

 

「ムササビ、朝勃ちの正式名称って夜間睡眠時勃起現象っていうらしいぜ。」

「まじか!ちゃんと名前あるんだな!これからそう言うわ笑」

「85分ごとに1回起きて、25分間ずっと勃ちっぱなしなんだって。」

「だからか、俺のジョニーがなかなか鎮まらないのは。」

「実はこれ、女性にも起こるんだ。朝濡れてることもあるらしいよ。」

「朝濡れか!人類の神秘やな!」

 

まるで中学生のような会話である。しょっちゅうこんなことばかり喋っていた。そしてそんな話をすればするほど友情は深まっていた。

TwitterのDMを通じてラインを交換し、面倒くさい恋愛相談をしてくるリスナーの愚痴で盛り上がった。エロ心理学のネット記事を見つけては互いに報告し合った。奇遇にも同じ都内住みだったので、緊急事態宣言が明けたら一緒に飲みに行こうぜ!という約束もした。

私たちはライバーとお気に入りのリスナーという関係ではなかった。ましてやライバー仲間という関係でもなかった。

ムササビは友人だった。

「X」で初めて出来た友人だった。

 

 

【vol.10】へ続く。

 



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