時給2000円の草むしりバイトをやってみて思った、ぶっとい根っこを張って生きてるのか問題。

昨日、数回目の草むしりバイトをした。

 

「コロナで居酒屋バイトのシフト減っちゃいました!マジで金がないっす!なにか仕事ください!」

昨年の10月、飲み屋で出会ったおじさんに懇願したのが始まりだった。平日週末関係なくヘラヘラ遊びまくっていたのがいけないのだが、呑兵衛がそう簡単に反省などしちゃいけない。やばいぞこのままでは今月の飲み代が足りないぞ…そう危惧するのが酒飲みの基本である。酒の誘惑に打ち勝つ必要などないのだ。金を稼ぐ動機は、大体が飲み代の工面と言っても過言ではない。

 

「よし、じゃあウチの草むしり手伝ってくれ。」

ぷわぷわと煙草をふかし、痩せた二の腕をかきながら、そのおじさんは言った。本当ですか!助かります!私は感謝を告げて緑茶割りのグラスを飲み干し、店主におかわりを注文した。

 

 

マンション住まいで庭も無いので、草むしりなど今までしたこともなかった。ゆえに、とりあえず庭の雑草をばっさばっさ引っこ抜いてきゃいいんだろう、くらいのイメージを抱いていた。「単純作業だしサクッとやっちゃうぜ!」余裕しゃくしゃくで現地まで自転車を走らせる。

 

だが、現場はおじさんの家の庭ではなかった。正確には「おじさんが所有する土地」だったのである。そこは完全なる更地。一瞬であたまが真っ白になった。遠慮という概念がない彼らは自由気ままに生い茂り、私をふぁさふぁさと嘲笑っていた。どうしてこうも生えまくっているのか、っていうかどこから手を付けりゃいいのか、これ今日一日じゃ無理だよな、いろんな思考が頭をよぎる。

 

とにかくつべこべ考えずやるしかない。自分で頼み込んだ仕事である。手前の草をむんずと掴み、ひょいっと引き抜こうとした。あれ、抜けない。もう少し力を込めて上へ引っ張り上げてみた。めりっと土がめくりあがり、ズボッと抜けた。草があった場所から数匹のアリがわらわらと出てくる。思わず顔をしかめた。嫌々ながらまた同等のの力加減で草を引っこ抜く。今度はクモ、そして胴体が細長い変な虫が現れた。うわあ、と思わず声が出る。私は、飛ぶもの、噛むもの、刺すもの、速いもの、毒があるものが嫌いだ。マジかよこれが延々と続くのかよ・・・。奔放と広がる果てしない植物園を見ながら空を仰いだ。

 

今では大分慣れたものだ。どこからやってきたのか謎でしかない、小さな竹を刈り取りながら額の汗をぬぐう。突然飛び出してくるヤモリ、クマバチの襲来にはさすがにびっくりするけど、アリやクモやその他正体不明の虫には驚かなくなった。人間のエゴで君らの家を壊してごめんなあ、心の中で呟きながら、ふんっと得体のしれない茎を引っこ抜く。突如浴びせられた日の光に、ダンゴムシ御一行が身を丸くする。みんな同じとこに住んでるのね…ふーん…。

慈愛の精神をもってやってるつもりだし、飛ばないし、噛まないし、刺さないし、速くないし、毒もないけど、集合体でいるお前らはダメだ。

頼むから単体でいてくれ。集中しないでくれ。

 

名前があるのかないのかもわからない雑草の根っこの強さには感心する。雑草魂って言葉があるけど、本当にその通りなのだ。踏みつけて引きちぎるのは簡単だけど、根っこから引き抜くにはグッと力をこめる必要がある。しっかり踏ん張って全身でえいやっと運動しないと抜けないものもある。ぐったりと垂れた草を片手に「ハハハ、完全に駆逐してやったぜ」と某漫画の主人公を気取ってみるのだが、2つの季節を越えたあとに同じ場所を訪れると、そいつが再び復活していることもある。これが自然のチカラなのかと驚嘆し、その不屈さに恐れおののき、私はエレン・イエーガーごっこを再開する。

 

「ほい、おつかれさーん。」

草むしりが終わると、おじさんは私を飲み屋に連れて行ってくれる。

肉体労働後のビールは格別に美味い。授業が終わってからビールを飲むこともあるが、アルコールが全身を駆け巡る爽快さは、身体を動かしたときの方がはっきりとわかる。腹のすき具合もいつもより大きく、ダイエットをしているわけではないが、ついつい食べ過ぎてしまう。まあ体力使ったしいいか、と唐揚げを口に放り込み、パリッという音を小気味よく立てていく。

 

軍手を通り越して染みついた土のにおいが、箸を持つ指からほわんと漂ってくる。おしぼりで顔を拭くと少し茶色くなる。爪の隙間が黒くなっているのは、自然に触れた証だ。

 

「今日もありがとな。」

おじさんが財布から抜き身の10000円札を取り出し私に手渡す。昼間から夕方までの作業だから時給換算すると大体2000円だ。めちゃめちゃいい仕事である。ありがとうございますと頭を下げて、自分の財布にしまう。

 

「いやあしかし、成長速度めちゃめちゃ早いっすよね。人間が成長するのはめちゃめちゃ時間がかかるっていうのに。」

「そりゃそうさ。根っこがあんだけ長いんだ、人とは違うよ。」

「しっかり根を張って生きなきゃいけないってことかあ。」

「そういうこと。ま、それが一番難しいんだけどなあ。」

 

ぶっとい根を張って、力強く生きる。多様な声がうごめく雑踏の中で、どんなやつにぶつかられても完全敗北しない。弱弱しく白旗を上げない。サバイブし続ける。たかだが雑草なんだけど、されど雑草。私も同じ雑草であるならば、ちょっとくらい彼らを見習った生き方をしよう。強い克己心を持つのだ。酒が回った帰り道、ふらふらと歩きながらそんなことを思った。

 

強い克己心を持とう。

朝起きても気持ちは変わらなかった。私自身も少し成長したのかもしれない。

さて、今日はどんな旅にでようか。

サロンパスでも探しにゆこうか。

 


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