「酒しか勝たん!」。この頭の悪そうな発言は、生きる喜びと朝日の後悔を旗幟鮮明に表現する。

「酒しか勝たん!」

この、頭の悪そうな発言が大好きだ。

浴びるほど飲んでしまえば前後不覚。記憶とお金がすっからかん。酩酊して路上に寝転んでみれば、コンクリートの心地よい冷たさを味わえる。そして目に映るのは燦然と輝く星たち。遠い昔の星の日を思うと、自分のちっぽけさがよくわかる。妙な幸福感に浸りながら「ああ、このまま死んでもいいなあ」なんて思うけれど、本当に死んじゃったら嫌だからさすがに起き上がる。

 

酒はほどほどにした方がいいというのは分かっているが、飲み始めたらもう止まらない。酒には気をつけろよ、と言ってくれる人はたくさんいたけれど、いつの間にかみんないなくなった。いや、厳密にはいなくなったんじゃない、同じセリフを言う側になったから、そういうことを言われなくなったんだと思う。

「酒には気をつけろよ」。これを言ってくれた人はみんなアルコールスーパースターだった。仕事が終わり、酒場に向かって急ぎ足。そして着くやいなやそのまま一杯流し込む。酒が身体を満たし、至福の表情を浮かべる先輩方の姿は美しかった。ただの娯楽ではない、生きる喜びを味わうために飲むのだ。そして朝が来るまで飲み騒ぎ、明日への危機感を覚えた状態で帰宅。仕事のコンディションは懸念を抱くまでもなく、悪い。乱雑に服を脱ぎ捨てベッドに倒れこむ。1時間後にアラームを設定し、つかの間の睡眠をとる。

 大学生の時に出会った彼らの年齢に、いよいよ私も近づいてきた。やはり先輩の背中は偉大だ。28歳になった今、全く同じ行動を取っている。そして人には言えないような過ちをこっそり犯す夜もある。。。(犯罪じゃない)

「酒に気をつけろよって言われてたけど、結局ダメだったわw」

敬愛する先輩方のグループに加われたことが誇らしい反面、迎える朝の後悔は毎回ドでかい。ああ、朝日に照らされて恥ずかしくなる行為ばっかしちゃだめだな。酒ってやっぱり恐ろしいワ。反省反省。それの繰り返しである。

 だからこそ、まだその感情の境地を知らない無垢なハタチたちに言いたくなるのである。「酒には気をつけろよ」と。異物を見るような目で、酒に侵された私を見ているがいい。感嘆に変わる日はすぐやってくるぞ。10年も経たないうちに、この台詞のバトンを受け取ることになるだろう。快く渡してあげるからはやくこっちに来なさい。大丈夫、朝まで飲んでも仕事は気合で出来るから。

 

酒は生きる喜びを味わうために飲むのだ。

限られた生をかみしめる極上の時間は、後悔を照らす朝日よりも尊いのである。

つまり、「酒しか勝たん!」ということだ。


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