「怠惰な大人になるな」と土まみれのサッカーボールから諭された昼さがり。

天気が良かったので近くの川沿いを散歩することにした。

冬の冷たさも抑えられ、前髪を程よくなでてくれる風に身を任せながら道を歩いた。時刻は昼過ぎ。陽の光が川に反射して、きらきらと輝いている。ああ、春が近づいているのだなあ。いつか盛り上がったお花見の記憶に浸りうっとりする。くぅ、酒が飲みたい。

ゆらゆらと泳ぐ鯉を眺めながら、どこまで行こうか考える。別に大して家から離れているわけではないし、特別予定もないからそこまで気にしてはいないけど。

なんて頭の中で喋っていると、気が付けば小さな公園に着いていた。公園と言っても鉄棒やブランコなどの遊具があるわけではない。こじんまりした木のベンチが4つ。ぼこぼこした地面からところどころ細い木が生えている。非常に殺風景な空間だ。

どういうわけか、そこが妙に落ち着いてしまったので、ちょっとここで休憩していこうと思った。人っ子一人おらず風が木々を揺らす音が聞こえるばかりで、なんだか少しさみしい。ダウンのポケットから煙草を取り出し火をつける。いつも以上にゆっくり吸いゆっくり吐き出していると、端の無造作な草むらに小さなサッカーボールを見つけた。網目が確認できないほど土まみれの様子をみると、長らくここに放置されていたようだ。軽く足で踏んでみると、意外にもしっかり空気が入っていて驚いた。

ボールを右足の甲に滑らせ、軽くリフティングを始めてみる。ぽーん、ぽーんと小気味よい音を立ててボールは空が舞う。が、10回もいかずに地面へ落ちてしまった。

サッカー部だったので、多少は遊べるだろうとふんでいたのだが、びっくりするくらい技術は落ちていた。悔しくなってもう一度、もう一度と幾度か繰り返しているうちに膝と靴は土まみれに。

私の息は完全に上がっていた。たった15分間リフティングをしていただけなのに。

 

なるほど、これが日々の代償なのかと額の汗をぬぐいながら思った。肝臓を捧げるかの如く酒を浴び、肺は煙で満たし、終電ダッシュで申し訳程度の体力づくり。先月28歳を迎えたのだが、身体能力が年々落ちてきているのを感じている。歳を重ねるにつれ様々な酒の場を覚え、肉体を酷使した労働は自分より若い者たちに振る。 

よくないな、楽なことばかり覚えてきている。要領もよくなって、自分の力量も理解し始めているから力の抜き方が分かってきてしまっている。そのくせ、後輩や生徒たちには「気合だ根性だガッツだファイトだ」などとがむしゃらな精神論を述べているのだからたちが悪い。ごめんな。

もちろん、「もっと頑張れよ」という言葉を人生の先輩方からよーく頂く。しかし完全説教モードになる前にうまく逃げる隠れる躱す、まるで伊賀忍者のように。

いやあ、最近駄目だなあ・・・。サッカーボールを見ながらつぶやく。丸い土の塊のような外見になるほどがむしゃらにボールを蹴らなきゃいけないなあと。大人びた行動は、時にただの怠け癖になることもある。自分を見直さなければ。コロコロと転がっていくサッカーボールに向かってひとり頷いた。

 

…もう少しだけ蹴っていこうかな。

木の間を縫うようにドリブル練習を開始する。

身体のキレを取り戻すには時間がかかりそうだ。

 

気がつけば、風が少し強く冷たくなっていた。


f:id:takamichi-nariu:20210224210323j:image