38.5℃の熱を出した状態で美少女に告白したら、気味悪がられてサクッとフラれた件について。
前回、【告白して失敗する奴にありがちな痛い思考を自省の念とともに解説してみた】という記事を書いた。自分のことを棚に上げて「これだからお前らはダメなんだ」と批判の快楽に溺れてしまったことを心より反省したい。
ごめん。
というわけで今回の記事は、【今週のお題「告白します」】第二幕~38.5°Cの熱を出した状態で美少女に告白したら気味悪がられてサクッとフラれた~という私自身の失敗談にしてみた。
自分のタイミングを重視してナルシズムに酔った結果こうなった。これから告白を考えている男子諸君、ぜひ同じ轍を踏まないでほしい。
あれは私が18歳の時のこと。大学に入学したばかりの私は人生初の一人暮らしを謳歌していた。髪を染めパーマをかけ、俗にいう大学デビューを果たした。京都という新しい土地、愉快な新しい友人たち、何もかもがきらめいて世界がまるごと自分を受け入れてくれている。まさに人生の絶頂期とはこのことだと浮かれていた。
そして自分には大きな目標があった。言わずもがな、恋人を作ることである。華々しいキャンパスライフに必要不可欠なものであると言っても過言ではない。少なくともその時は本気でそう思っていた。祇園祭の宵山までに彼女が出来なければ来年まで彼女ができないという謎のジンクスも相まって、私はせっせと様々なサークルの新歓に足を運び恋の芽吹きを探しまくっていた。
5月初旬。ついに出会いはやってきた。インドアスポーツサークルの新歓バーベキューに華は咲いていた。艶やかな黒髪、アーモンド形の妖艶な目、すっきりとした鼻筋、ロングスカートの裾がさわやかになびく美少女だった。名前は仮にMとしよう。私は一瞬にしてMに心を奪われた。この子が彼女だったら薔薇色の日々になるだろうなあ。こんなに可愛いのだから、すぐに彼氏ができてしまうに違いない。とにかく、善は急げ、だ。
連絡先を交換した後、私はすぐご飯の約束を取り付けた。まだ入学してから日も浅い。数多のライバルに先駆けしてやったぜと意気揚々の帰り道、拳を天に突き上げた。
それから数回のデートを繰り返し、なんということだろうか互いの家にも行った。「異性の家に上がり込む」これは大きな意味を表しているはずなのだが我々互いに18歳の青少年少女。大人の世界を想起させる出来事は特別起こらなかった。ギターを弾いてB'zのALONEを歌ったりと割と純情な青年だったのが我ながら未だに信じられない。
Mと知り合ってから1ヶ月半経った頃、ついに大きな決心をする。夜中、覚えたての酒を体に流し込みながら、乱雑に置かれた卓上カレンダーを見て大きくうなずく。
「7月7日の七夕、Mに告白しよう。」
七夕と言えば織姫と彦星が逢瀬を果たすロマンティックな日。この二人のラブパワーにあやかってみりゃ告白も成功するんじゃねえか。ああスピリチュアル万歳。友人たちに電話をかけて今までの経緯を説明したらみんな揃って「大丈夫やろ」と言ってくれたので自信も湧いてきた。よっしゃいける、いける。付き合った後のムフフな光景を頭に描きながら酔いどれ妄想人は眠りについた。
今から思えばこの時に気づいておくべきだった。自分の都合でタイミングを決めてしまうのがどれだけ危険なことかまだ私には分かっていなかった…。
七夕当日。ちょっと相談したいことがあるから今夜一瞬会えない?と午前中のうちにメールを送った。口実作るのヘタクソか、というツッコミはあるかもしれないが彼女に会うために頑張ったんだ、多めに見てくれ18歳を。
しかし、ひとつ大きな問題が発生していた。朝から体の節々に猛烈な痛みを感じていたのである。時間を追うごとに動悸も激しくなり、頭も回らなくなってくる。引き出しの奥から体温計を取り出し測ってみると38.5と表示された。ダメだ、これは完全にダメなやつだ。咳も出てきた、つばを飲み込むと激痛が走る。
こんなコンディションで告白などしていいわけがない。普通ならばそう考えるだろう。だが、私は最後まで信じていたのである。希望の七夕マジックを。
約束の時間が迫り、Mの家までふらふらと自転車を漕ぐ。もはや視界も危うい。このまま死ぬのではないかと悲劇の王子を気取りながら彼女のアパートのエレベーターに乗る。やっとの思いで部屋の前までたどり着きインターホンを押した。
「はーい」という快活な声がした数秒後、笑顔のMがドアを開けて出てきた。対象的に、汗はだらだら息は絶え絶え今にも倒れこみそうな自分の身体。残された力を振り絞り、用意していた口実をまずは彼女に告げようとした。
「好きです。付き合ってくだしゃい。」
頭が働かず口だけが勝手に動いているのを遠い意識の中で感じていた。え・・・と困惑した表情を見せるM。告白時独特の妙な居心地の悪さを無視するかのように、痰が絡んだ大きな咳が私の口から出る。勢いで体が一瞬ぐらっとよろめく。
「えっと・・・ちょっと考えさせて。」
Mは数センチずつドアを閉めながら、ぎこちない笑みを浮かべ私に言った。うん、わかったとまた派手な咳を出しながら大人しく引き下がる。あのときの笑顔を未だに思い返すが、心なしかちょっと気味悪がられていたような気がしなくもない。Mがドアを閉めてしまうと、一気に力が抜けていくのが分かった。へなへなとその場に座り込みたい衝動を抑え、私はエレベーターのボタンを押した。
言うまでもないが、結果は「ごめんなさい」に終わった。これは至極当然のことである。もし自分がこんな半ゾンビ男に告白されたらお断りするに決まっている。なぜこの人はこんな体調で想いを告げに来たのだろう。マスクもしないで思い切りせきこんで。風邪移す気なの?看病してもらいたくてやってきたの?っていうか相談は?体に鞭打ってここまでやってきた俺カッコイイとか思ってんじゃないの?どこまでいってもマイナス要素しか浮かばない。告白は自分本位でやるべきものではないのである。
ちなみにその後Mとはどうなったか。この事件を境にしばらく距離を置かれていたが、ひょんなことから一年後また出会うことになる。その話は今回の告白エピソードよりもはるかに酷いのでまたいつか綴ろうと思う。
以上が私の告白失敗エピソードである。
告白失敗談なら割と自信があるので、いつかめちゃめちゃ暇なときに作品集にしてみたい。
(でもこれ以上、話数が増えるのはイヤだ)
笑。