【コロナ渦で失業したので、ライブ配信を毎日平均6時間やりまくってみた8ヶ月のこと】連載記事vol.10

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【連載記事vol.1】「ライブ配信」を毎日平均6時間やりまくった、コロナ渦8か月の日々をギリギリまで激白してみた。

takamichi-nariu.hatenablog.com

 

【前回記事vol.9】はこちら↓↓↓

takamichi-nariu.hatenablog.com

 

WIKちゃんは、小悪魔的なあざとい表情とタメを作った可愛らしい声でリアクションしてくれる、イマドキっぽい感じ(?)の女の子ライバー。

普通にしてれば可愛いのに。そう思いながら幾度となく彼女の配信を訪れた。キュートなアイテムリアクションで数多の男性ライバーを虜にし、着実にファンを増やしていく。時折白目を向いてみせるなど、変顔もチャーミングだ。どのような発言をしてよいのかわからず、黙って画面を見ているだけのリスナーにも積極的にコミュニケーションを取っていく。まさにお手本のようなライバーである。

だが、深酒しているときのWIKちゃんはとんでもないヘンテコ女だった。

 

深夜3時半過ぎころになると、WIKちゃんはよく私の配信にやってくる。

「めちゃくちゃ酔ったわw」

「やば」

「風呂までが遠い」

「爆笑」

来て早々コメントの連投である。かなりベロベロのようだが、スマホの文字打ちスピードはシラフの私よりも全然早い。電光石火の連投で、一瞬にしてコメント欄がWIK一色に染まる。

「ほんと、お前飲みすぎだよ。踊りに支障出るんじゃないの?」

彼女はダンサーだ。先生もしている。

TikTokInstagramにはダンス動画が複数上げられており、どれもキレッキレで美しく格好いい。しかし酔っぱらうとただのヘンテコである。ああ、教え子が見たら泣くぞ。

「やばいよね、あたし」

「まじむり」

「爆笑」

とにかく最後に爆笑とつけたがる。20歳過ぎの女の子の間で流行っているのだろうか分からないが、とにかくWIKちゃんは今まで出会ったことのないタイプの人種だった。瞬間コメント数は多いのに、滞在時間はリスナーの中で最短だ。

「ファルス」

ジブリ作品で有名な破壊の呪文に似た言葉を唱えて、WIKちゃんは嵐のように去っていく。もちろん、ファルスはおぞましい意味ではない。比較的平和主義の彼女がそのような発言をすることなどない。

ファルス、それはラテン語で男根を意味する。正確には、平常時の男根ではなく、いきり立った男根という意味である。「X」では、ち〇ち〇、ぺ〇ス、等の言葉はコメントすることが出来ないので、私の枠では別の名称で呼ぶことにしていた。

そしてそれを誰よりも早く暗記しすぐに使用することが出来るWIKちゃんはめちゃめちゃ優秀である。インプットしたらアウトプット。この学習姿勢を生徒たちにも見習ってほしいものだ。

もちろん、ヘンテコは見習わなくていいけど。

 

                                     ***

 

雪ノ下ちゃんは、恋愛相談後に常連リスナーになってくれた女の子だった。知り合った当初は配信していなかったが、アイコンに映る銀髪ショートカットの彼女は絶対に配信向きだとこっそり思っていた。かわいくて愛嬌があって頭の回転も速い。他のリスナーさんの発言も拾って、場を形成してくれる気立ての良さも魅力。「いつか配信を始めるつもり」と言っていたので、その際は絶対に駆け付けようとこちら側もフォローしていた。

そして訪れた配信の日。待ってましたとばかりに私は「X」の世界に飛び込んだ。おお、既にだいぶ盛り上がっている!画面には耐えることなくアイテムエフェクトが表示されていた。

「あ、成生さん!ありがとうー!」

静止画ではない、動く雪ノ下ちゃんがこちらに向かって手を振ってくる。コメントやプロフィールのイメージしかない人が、動画でそこに存在しているというのはなんだか不思議な感覚である。

「ありがとうー!」

雪ノ下ちゃんの隣にはもう1人女の子がいた。同じく笑顔で手を振ってくれている。

「この子は友達の林原ちゃん!たまに一緒に配信するつもりなの!」

「こんにちはー、林原でーす!」

林原ちゃんと紹介された女の子がぺこっと頭を下げる。この子もとっても綺麗な顔をしている。ライブ配信集客において、「美女」というステータスは大変有利だ。美女を拝む為に「X」をしているという人はかなり多い。しかもそれが2人いるのだから、単純に考えると集客効果はその2倍ということになる。

だが、この2人はルックスがいいだけではない。特筆すべきはコンビネーションだ。彼女たちの配信では、素晴らしいシンクロナイズを見ることが出来るのである。

たとえば、アヒルが描かれたアイテムを彼女たちに投げてみると、

「ガーガー。ガーガー。ガガーガー!」

とタイミングよく同じ動作でアヒルの真似をしてくれる。何度も何度も練習したのだろうか、完全に息がぴったりだ。あのアイテムリアクションなんだっけ、ということもなくスムーズに行われる。もはやある種のショーだ。

また、配信場所の選択も非常にクレバーだった。アイテムリアクションやパフォーマンスはある程度派手なものが求められるので、それこそそれをやれるだけの環境が必要になってくる。そういう理由もあってか(勝手な憶測だけど)、彼女たちは車の中で配信をしていた。確かに車内なら隣の住人から苦情を受ける心配もなく、多少大声で歌ったりしても問題ない。完璧な環境と計算された配信力、流石と言う他ない。

 

                                     ***

 

雪ノ下ちゃんたちの配信はもっと伸びるのだろう。感心しつつ、応援しつつ、嫉妬とも少し違う、ひび割れた感情が自分の中で渦巻き始めた。キラキラと輝きを放つ彼女たちの枠と比べて、地味すぎる自分の配信風景・・・。

はたしてこのままで大丈夫なのだろうか。ちょこちょこと人は来てくれるようになったけれど、如何せんアイテムが飛ばない。身銭を切るだけの価値が自分の配信にはないということだろうか。恋愛相談をしてきた人数も80人ほどになった。講義を楽しみにしてくれているリスナーもいる。だが、やはりどうしても目に見える結果が欲しい。

思うように成果が出なくて、やってきたことが正しいのか分からなくて、YouTubeで動画を出すたびに自分の必要性を疑い始めていた。できることなら、ライブ配信を通じて自信を付けたい。そんな気持ちが仄暗い心の底から弱々しく浮き上がってくる。

同時期に始めたライバー仲間の配信が盛り上がっていくのを横目に、自分だけ取り残されたような気分を自虐的に味わっていた。エゴで埋め尽くされた被害者意識に押しつぶされそうになりながら、私は配信を続けていく。

 

 

【vol.11】へ続く。

 



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【コロナ渦で失業したので、ライブ配信を毎日平均6時間やりまくってみた8ヶ月のこと】連載記事vol.9

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緊急事態宣言が延長されるのではないか、という憶測がSNSで飛び交い始めた。同じく飲食店に勤務する友人たちやイベント系の知り合いも、今後政府がどのような方針を示すのか分からずおろおろしているようだった。私自身ライブ配信をやりながらどうにかニート生活を乗り越えてきたが、さすがに2ヶ月目はまずい。

 

「仮に延長になっても、ランチとかテイクアウトはやりますよね?多少の人手はいりますよね?」

バイト先の店長に期待を込めてラインしてみたのだが、「一応店はやるつもりだけど、時短営業になっちゃうから人件費の関係でバイトは誰も入れられない。ごめん。」と復帰不可の返信が来てしまった。

いやあ困ったなあ。無収入息子へ向ける両親の眼差しを想像して、小さく頭を抱えた。取り急ぎウーバーイーツで収入を得ようと思ったのだが、免許証・マイナンバーカードを持っていないためそもそも応募資格がなかった。ああ、狭かった肩身がさらに狭まくなっちゃう。

 

そんなこんなで緊急事態宣言延長が決定し、同時にニートライバー生活の継続も確定した。ニュース速報を見た直後は「どうしよう困ったなあ、金がないなあ、やべえなあ。」と周囲にボヤいていたのだが、徐々に「実はこれ、運気キテるんじゃ?」と思うようになった。バイトが一切できない状況を言い訳に、ライブ配信をしまくってファンを増やしまくれる好機!だと捉えることにしたのだった。やろうと思えばコンビニやスーパーなどでバイト出来るはずなのだが、テキトーに理由を付けてひたすら目を背け続けた。両親から勧められた仕事もすべて拒否した。仕事もしないで、あなたは夜な夜な一体誰と喋ってるのと母に言われたが、これも仕事のひとつだと苦し紛れに返答した。

 

 

                                      ***

 


毎晩ポッカレモン入りの焼酎水割りを飲み、リスナーのみんなとお喋りしながら朝を迎える。メンタリストDaiGoさんに影響を受け始めていたので、私もDaiGoさんのYoutube動画と同じように立ちながら配信するスタイルに切り替えた。よし、このままミニ講義を続けて「X」界のDaiGoになってやろう。そんな恥ずかしい野望をうっすら持っていたことは、今となってはかなりの黒歴史である。

 

                                       ***

 

 

ムササビは「お酒好き」のタグ検索をしていて知り合った、私より1つ歳上の男性ライバーだった。と言っても毎週金曜日の20時~21時しか配信していないので、ライバーというよりリスナーと紹介した方がいいのかもしれないが。

 

「はじめまして。恋愛心理学アルチューバーの成生です。」

「恋愛心理学!?アルチューバー!?なんかすごい肩書っすね!」

彼はグイっと画面に顔を近づけてきて、立て続けに質問を続けた。

「恋愛心理学ってことは・・・モテる方法とかご存じなんですか?え、めっちゃ知りたいっす!フォローします!今度遊びに行くので教えてください!っていうか、アルチューバーってなんですか?Youtuberの亜種ですか?」

「一応、恋愛心理学講義的なモノを配信でやってます。恋愛相談も受け付けてるのでもしよかったら!酒好きYoutuberなので、アルチューバーと名乗らせてもらってます!」

「そうなんですね!Youtuberもやってるんですね!いやいやすごいっす・・・夢がありますねえ。ああ俺もやってみたいなぁ。」

「ぜひ!やりましょうよ!」

「できるかなあ。」

ムササビは太い黒縁眼鏡を外してハンカチで軽くふきながら、自信なさげに眉毛をハの字に曲げた。絶妙にダサい表情なのだけれども、なんだか愛嬌のある人である。しばらくすると彼の顔が真っ赤になった。酒はそんなに強い方ではないらしい。

「自分、酒は好きなんですけど、めちゃめちゃ弱いんすよ。」そういってちゃぽちゃぽと音を立てながらストロング缶を振る。他のリスナーもそれを見てやんややんやと彼をいじっていく。

 

アイテムを頂き、高ランクを目指す数多のライバーとは全く違ったライブ配信の様だった。「別にアイテムもいらないし、宣伝したいことも特にない。ただみんなと喋れればそれでいい。」そう語る彼は異質だった。今まで何かしら目指すものがあったライバーばかり見てきていたから、このような純粋な気持ちで配信をしている人は新鮮に映った。そして、集客に力を入れているわけでもないのに、その程よい情けなさと人の好さに惹かれてリスナーが続々と寄ってくる。みんな滞在時間も割と長い。求心力のある人だなぁと素直に思った。ここまでディスったり褒めたりしたが、ようするにこの男ムササビは、めちゃくちゃいいやつなのである。

 

自粛期間で女の子たちと会えず、溜まりに溜まっていたエロ心が私を女性配信者の元へ走らせていた。そのため、主となる交流が女性ライバーとばかりになっていた。

だがしかし、結局のところ男性と話すのがやはり1番落ち着くのである。変にカッコつけることなく、自然体で談笑できるからだ。これは現実でもライブ配信というバーチャル世界でも同じだ。ムササビはほぼ毎晩私の枠を訪れた。そしてあくる日もあくる日も桃色トークに花を咲かせたのであった。

 

「ムササビ、朝勃ちの正式名称って夜間睡眠時勃起現象っていうらしいぜ。」

「まじか!ちゃんと名前あるんだな!これからそう言うわ笑」

「85分ごとに1回起きて、25分間ずっと勃ちっぱなしなんだって。」

「だからか、俺のジョニーがなかなか鎮まらないのは。」

「実はこれ、女性にも起こるんだ。朝濡れてることもあるらしいよ。」

「朝濡れか!人類の神秘やな!」

 

まるで中学生のような会話である。しょっちゅうこんなことばかり喋っていた。そしてそんな話をすればするほど友情は深まっていた。

TwitterのDMを通じてラインを交換し、面倒くさい恋愛相談をしてくるリスナーの愚痴で盛り上がった。エロ心理学のネット記事を見つけては互いに報告し合った。奇遇にも同じ都内住みだったので、緊急事態宣言が明けたら一緒に飲みに行こうぜ!という約束もした。

私たちはライバーとお気に入りのリスナーという関係ではなかった。ましてやライバー仲間という関係でもなかった。

ムササビは友人だった。

「X」で初めて出来た友人だった。

 

 

【vol.10】へ続く。

 



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エヴァンゲリオン未鑑賞の母が、序・破・Qのダイジェストを見ただけなのに一瞬で物語を理解した件について。

4月29日にNHK BS1にて放送された「さようなら全てのエヴァンゲリオン庵野秀明の1214日~」を母と共に視聴した。

 

エヴァンゲリオンの映像作品はすべて鑑賞済みだが、未だにはっきりと理解出来ていない箇所がある。とりあえず新劇場版は2回ずつ見た。シン・エヴァも同様である。最終回ということもあって今作は割と分かりやすいと思ったが、やはり1回映画館に足を運んだだけでは足りない。ああ、本当に終わったんだなという実感を得たのは2回目鑑賞時であった。

 

実は庵野さんに何度かお会いしたことがある。

かつてイタリアンレストランで働いていたのだが、その際何度か利用して頂いた。番組でも語られていたが、庵野さんはめちゃくちゃ偏食家だ。ゆえに、こちらも【庵野秀明特別メニュー】を考えなくてはならない。「何を食べないか」はデータに残してあるけれど、「何が食べたいか」は本人の気分もあるのでこちらもよくわからない。ひと口食べただけで、スタッフの方にあげてしまうなんてこともよくあった。(その様子を見て頭を抱える料理長がちょっと可哀想だった)

でも庵野さんに我儘男という印象は全くない。むしろシャイで紳士的だったイメージがある。ごちそうさまでしたと何度か頭を下げて、そそくさと店を後にする姿が大きな体に似合わなくて可愛い♡と思ったのはここだけの話にしておこう。

 

「今日は8時から庵野さん見るからね!」

庵野さんに勝手に親近感を覚えていた私は、両親に向かって高らかに宣言した。テレビは譲らないぞという強い意志を示し、エヴァ未鑑賞2人にハイハイと呆れられながらテレビの保有権を獲得。そして普段の1.3倍のスピードで夕食を平らげ、放送開始10分前にはリビングのソファーへ座りスタンバイ。鑑賞準備は完璧である。(以下シンエヴァのネタバレあり)

 

だがしかし、ひとつ懸念があった。あれはなに? これはなに? このひとだれ? 常にくっちゃべっている母の存在である。家で映画やドラマを見ていても、スポーツ中継を見ていてもとにかくひたすら質問してくる。息子として言うならば、「うざい」の一言に尽きる。うるさいなぁ、集中してるんだから黙っててよ!もしくはどっか行って!サッカー日本代表戦のときに外飲みへと追いやった記憶が頭をよぎった。

あれはなに?これはなに?と質問攻めにあったら、「アヤナミレイ(仮称)か!」と突っ込んでみたい。まあ、エヴァ未鑑賞の母からしたら意味不明だろうけど。

 

そんなこんなで8時になり番組が始まったのであるが、有難くもその懸念は杞憂に終わることになる。いつもなら聞こえてくる母の声がどういうわけか全く聞こえないのだ。私に気を遣ってお口にチャックなのか、スマホをいじっているのか、はたまた具合でも悪いのか。

そーっと振り返って母を見てみると、なんとめちゃめちゃ集中してテレビを見つめているのである。庵野さんが「僕を撮らなくていいから」とカメラに向かって言っている。庵野さんが居酒屋でビールを飲んでいる。画面に映るそれらの光景をただただじっと見ているのである。

 

「おもしろい?」

思わず私の方から母に話しかけてしまった。

「うん。見入っちゃう。」

私の顔を一瞥することなく答える。

エヴァンゲリオンを一度も見たこともない母が庵野さんのドキュメンタリーに見入っている。アニメにほとんど関心がなく「最近流行りの、鬼のナントカ」と言っているような人が真剣に見ているのである。アニメのシーンも食い入るように見つめている。私からすれば、かなり異様な光景だ。

 

庵野さんすごい!エヴァンゲリオン見てみたい!」

前編が終わり、母が言った。こんな言葉が飛び出すなど大地が真っ赤に染まらない限り起こらないと思っていた。

確かにエヴァは魅力的な作品だ。なんとなくハマっていって、徐々にコアなファンになっていく人が多い。というか私がそれだ。庵野秀明という人物に心を掴まれてから見始めた、そのような人はなかなか少ないのではないか。これはカリスマゆえになせる業なのか。庵野さん恐るべしである。

 

「え、まぁ別にアマゾンプライムで見て頂いていいんですけど・・・話、結構難しいよ?」

「あらすじ、Youtubeにないの?」

「たぶんあるんじゃない。」

「見たい。」

 

序・破・Qをそれぞれ5分ほどにまとめた公式ダイジェスト動画があったため、番組全編が終わってから一緒に見た。指を顎の下にやりながら首を傾げ、神妙そうな顔を浮かべている。

使徒ってなに?あのピラミッドなに?きっと様々な疑問が生まれていることだろう。大丈夫、そんなの15分じゃ理解できないから。「なんかすごそう!」でいいのさ、お母様よ。

 

「なるほど!わかった!」

 

いやいや、ウソでしょ。なんでやねん。

 

スターウォーズだね!エヴァは。だって碇君、お父さんのこと嫌いなんでしょ?それで喧嘩するんでしょ?それに乗り物がたくさん出てくるし。そっくりそっくり!。」

したり顔で説明してくる。

 

まぁたしかに・・・。

ジェダイの騎士ルークはダース・ベイダーを憎んでいる。しかし、憎み切ったままで物語は終わらず、最終的にダークサイドから連れ戻し父の魂を救済する。そのストーリーのみを千切ってみると大まかなところは同じだ。一瞬で要約してしまったのでついつい感心してしまった。

 

 

いやいやいや!

アスカや綾波ミサトさんなどの細かい人物描写は端折っちゃいけないよ!全てが大事なのだよ!はっ…もしかして公式さん…初見民がスターウォーズっぽく受け取ってくれるようにダイジェスト作ったの!?だとしたならば、完全に思惑通りです!うちの母、興味持ってます!ああ、フォースと共にあらんことを!まあ、母は綾波レイア姫ポジションだと思ってるけど!笑

 

・・・というか母よ、シンエヴァ見てないのによくわかったな大雑把な展開が。

 

ちなみに茶色い髪の女の子と紫色の髪の女性の区別がつかなかったらしい。物語は完全理解しなくていいから、登場人物はきちんと把握してほしいものである。1ファンとして切に願うばかりだ。いつか改めてちゃーんと見てほしい。(結局、地上波で再びやらない限り見ないんだろうけど)

 

【終劇】

 


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【コロナ渦で失業したので、ライブ配信を毎日平均6時間やりまくってみた8ヶ月のこと】連載記事vol.8

 

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【連載記事vol.1】「ライブ配信」を毎日平均6時間やりまくった、コロナ渦8か月の日々をギリギリまで激白してみた。↓↓↓

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やらなきゃいけないことをやらなくていい時間が無限にあった。厳密には緊急事態宣言が解けてバイトに復活するまでだったけど。2020年の4月5月は、生きてきた28年の中でもしかしたらある意味1番自由だったかもしれない。

 

もちろんYoutube動画の制作に没頭できる期間でもあったが、私はむしろファンやチャンネル登録者を増やすことに時間を費やした。昼過ぎに布団から這い出て、16時ころから2時間ほど配信し、夜は眉唾な記事ばかりの恋愛心理学サイトで知識を蓄える。そして日付が変わる24時から朝4時頃まで、がっつりノンストップで画面に喋り続ける。一般的にライブ配信のゴールデンタイムは20時~24時と言われており、そこが最もリスナーを集めやすいのだが、同時に超激戦の時間帯にもなる。多くのライバーがこぞって配信を開始し、リスナー争奪戦を行うのである。

もちろん、私のような弱小ライバーは全く勝負にならない。一応何度かゴールデン参入を図ってみたのだが、驚くほど誰も来なかった。その事実が小枝並の心には堪えたので深夜活動に専念することとした。ユーザーが減って徐々に落ち着いてくる24時以降を狙って、私は配信していた。

 

ゴールデンタイムに「X」を一切開かない訳ではない。恋愛心理学サイトに飽きたら、リスナーとして「X」の世界に飛び込んでいた。他のライバーの枠に足を運び、仲良くなることで、こちらの配信にも来てもらおうという「営業」をしていたのである。そこでは基本的に長居はしない。知り合いを増やすのが目的なので、15分ほど経ったら退散して、他のライバーの元へ行く。

このように、配信枠から配信枠へ梯子することを「枠回り」という。趣味が合って盛り上がったり、ライバーが可愛かったりしたら余裕で1時間以上滞在してしまうのだけれど・・・。

その枠回りが功を奏してか、常に平均4人以上が滞在してくれている状態になった。トータルすると、1日10人以上15人未満の人が来てくれるのである。6時間やって4、5人しか来ない過疎枠の時から比べれば大きな進歩だ。それに伴って、配信に対するモチベーションも上がった。自己顕示欲が満たされるというのは大きい。

 

京都出身ほんわかライバーぷにぷに、飲んだくれダンサーライバーWIK、ハイテンション関西弁ライバーちゃん子、車中ライバー雪ノ下ちゃん、酒やけホステスライバーひかりさん、そしてたかちゃん ・・・etc。

20代女子ライバーの来訪が大きく目立ち始めていた。他にも千草ちゃん、ユサちゃん(まだ10代だったが)、同期生のT、相談後に常連になってくれたFUMIさんも来てくれる。

もちろん、自分より少し多く経験を積んでいらっしゃるオトナの女性&恋愛心理学知りたいぜ系男性陣もいるのだが、当時のリスナー層は20代女性が圧倒的に多かった。

純粋無垢なるエロ心の赴くまま、数多の年下美女配信に足を運んでいたからこれは至極当然のことなのであるが。

 

リスナーの方々は、大概どこかぶっ飛んでいたけれど皆さん優しい人ばかりだった。美女枠を行脚しまくってるただのエロニートなのに、「心理学やってる頭の良い人」(?)として慕ってくれた。

それに応えたくて(博学っぽさを演出したくて)、恋愛心理テクニックを伝授するなどとにかく付け焼刃の知識を披露しまくった。具体的には、メンタリストDaiGoさんがYoutubeで喋ってる内容をノートにメモしまくって要約しただけの簡単なものなのだが。言ってしまえばただのパクりである。己の無知蒙昧さを隠して、「心理学やってる人」を演出するにはこれしかなかった。

にも関わらず、「わかりやすい」「おもしろい」そのような有難いお言葉を何度も頂いてしまった。オリジナル内容じゃないから申し訳ないとは思ったけれど、自分流にアレンジして解説するようにはしていたので目をつぶってほしいというのを言い訳として残しておく。(ごめんなさい)

 

ちなみにこのパクりミニ講義は、何かを教えることの楽しさを味わい始めるきっかけとなった。当時はまだ塾講師をやっていなかったので、これをやっていなかったら私は先生にはなっていなかったかもしれない。

空いてる時間に動画を見まくり、どうせならばと心理スキル教本も購入し、ひたすら知識量を増やした。それに伴って答えられる質問の幅も広がっていった。気が付けば、あんなに無理矢理続けていた配信もそれなりに楽しくなってきていた。

もっと勉強しよう、もっと伝えよう、このような気持ちを抱けたのはみんなのおかげです。ありがとう。そしてメンタリストDaiGoさん、素敵な動画をありがとうございました。あ、有料会員になったのでもう少しお世話になります。すみません。

 

 

                                     ***

 

 

頻度は減ったものの、智絵里さんも時折遊びに来てくれていた。だが、以前のように彼女のアイコンを見ても、テンションはあまり上がらなかった。むしろ、なにか説教されるのではないかと若干身構えてしまうようになっていた。

今までは智絵里さんに、わんさかダメ出しされたら「浅はかでした!すいやせん!」とおバカキャラで通すこともできたのだが、「先生」スタイルに変容しつつある現状で、そのような雰囲気を醸し出すのはあまり気が進まなかった。

 

「こうしたほうがいいから!」

「なにやってんの、そんなのだめよ!」

 

有難かったアドバイスも、自分の配信ではバランスの悪いスパイスに見えてしまう場面が出始めていた。DMでやりとりをしている最中叱られるのはいいのだけれど、公共の場でやられるとあまり体裁が良くなかった。

こうなってしまったのは智絵里さんが悪いとか、自分が悪いとか、そういう次元の話ではないのだろう。短期間で多くの人と交流を重ねた結果、一気に自分の住む水の色が変わった。ただそれだけだったのだ。

 

「なんであの人って上から言うの。」

初期の私と智絵里さんの絡みを知らない方から、あまりいい心地がしないと言われてしまった。みんなの表情は見えないけど、全体の雰囲気を微妙にさせている時があるというのは何となく分かっていた。

私が作っていた配信の形はひとつのクラスのようなもので、個人と個人のやりとりだけで永久に上手くやれるようなパーソナルなものではない。ぼやけた笑いで不満の声をごまかしていたけど、それがいつまでも続けられるわけがなかった。

 

「ちょっと言いすぎですよ。」

どんな話題でこの言葉を彼女に放ったのか、今や全く思い出せない。すっきりしたいような、申し訳ないような、自分を悪者にしたくないような、曖昧な感情があったことばかり記憶に残っている。

すかさず智絵里さんは反論してきた。勝気な方だから、しっかりと遠慮なく刺してくる。他のリスナーさんは黙って様子を伺っていた。常連リスナーさんと口論になったのは初めてだった。

 

「20代の若い女の子がたくさんいるんですから、そういう態度はよくないですよ。智絵里さんとは違うんですよ。」

 

智絵里さんが並べた、感情と理性が混じったコメントを一蹴するように私は強く言い放ってしまった。不穏な空気に動転して適切な言葉が選べなかった。下手したら他のリスナーさんまで失いかねない最悪の発言で攻撃をしてしまった。

「あなたは異物なのだ」と排除したかったわけではない。過疎が続く時期に支えてくれた人だし、時に叱ってくれる彼女が好きだった。きっと智絵里さんなら分かってくれるはずという甘えがあったのだ。そしてその気持ちが伝わると思ったのだ。

 

「あー」

「わかった」

「もういい」

 

すぐに謝罪をしたけれど、もう遅すぎた。

3言コメントを残すと、智絵里さんは私の配信から出ていった。するっと消えていなくなった。他のリスナーさんから心配の声が上がったが、「大丈夫、問題ないです。」とぎこちない笑顔を取り繕って画面に向かうのがやっとだった。心臓の鼓動が早くなり、額から汗がたらたらと流れてきた。じっとりとした重たい空気が朝まで残る、気持ちの悪い配信だった。

 

翌日、TwitterのDM画面を開くと、「今後、この方にダイレクトメッセージを送ることはできません」という文字が表示されていた。胸部をまるごと掴まれたようなショックが走った。もしやと思って「X」を起動してみると、フォロワー及びフォローの中に占い師 智絵里という名前がなくなっていた。頭の中の景色が白く染まり、鈍い痛みがジーンと心を駆けていった。フローリングにストンとへたり込んだ私を温度のない虚無感が包み込む。画面に映し出された現実を受け止めきれず、私はただただ呆然と壁を見つめ続けるほかなかった。

 

以来、智絵里さんは現れていない。

 

 

【vol.9】へ続く

 


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時給2000円の草むしりバイトをやってみて思った、ぶっとい根っこを張って生きてるのか問題。

昨日、数回目の草むしりバイトをした。

 

「コロナで居酒屋バイトのシフト減っちゃいました!マジで金がないっす!なにか仕事ください!」

昨年の10月、飲み屋で出会ったおじさんに懇願したのが始まりだった。平日週末関係なくヘラヘラ遊びまくっていたのがいけないのだが、呑兵衛がそう簡単に反省などしちゃいけない。やばいぞこのままでは今月の飲み代が足りないぞ…そう危惧するのが酒飲みの基本である。酒の誘惑に打ち勝つ必要などないのだ。金を稼ぐ動機は、大体が飲み代の工面と言っても過言ではない。

 

「よし、じゃあウチの草むしり手伝ってくれ。」

ぷわぷわと煙草をふかし、痩せた二の腕をかきながら、そのおじさんは言った。本当ですか!助かります!私は感謝を告げて緑茶割りのグラスを飲み干し、店主におかわりを注文した。

 

 

マンション住まいで庭も無いので、草むしりなど今までしたこともなかった。ゆえに、とりあえず庭の雑草をばっさばっさ引っこ抜いてきゃいいんだろう、くらいのイメージを抱いていた。「単純作業だしサクッとやっちゃうぜ!」余裕しゃくしゃくで現地まで自転車を走らせる。

 

だが、現場はおじさんの家の庭ではなかった。正確には「おじさんが所有する土地」だったのである。そこは完全なる更地。一瞬であたまが真っ白になった。遠慮という概念がない彼らは自由気ままに生い茂り、私をふぁさふぁさと嘲笑っていた。どうしてこうも生えまくっているのか、っていうかどこから手を付けりゃいいのか、これ今日一日じゃ無理だよな、いろんな思考が頭をよぎる。

 

とにかくつべこべ考えずやるしかない。自分で頼み込んだ仕事である。手前の草をむんずと掴み、ひょいっと引き抜こうとした。あれ、抜けない。もう少し力を込めて上へ引っ張り上げてみた。めりっと土がめくりあがり、ズボッと抜けた。草があった場所から数匹のアリがわらわらと出てくる。思わず顔をしかめた。嫌々ながらまた同等のの力加減で草を引っこ抜く。今度はクモ、そして胴体が細長い変な虫が現れた。うわあ、と思わず声が出る。私は、飛ぶもの、噛むもの、刺すもの、速いもの、毒があるものが嫌いだ。マジかよこれが延々と続くのかよ・・・。奔放と広がる果てしない植物園を見ながら空を仰いだ。

 

今では大分慣れたものだ。どこからやってきたのか謎でしかない、小さな竹を刈り取りながら額の汗をぬぐう。突然飛び出してくるヤモリ、クマバチの襲来にはさすがにびっくりするけど、アリやクモやその他正体不明の虫には驚かなくなった。人間のエゴで君らの家を壊してごめんなあ、心の中で呟きながら、ふんっと得体のしれない茎を引っこ抜く。突如浴びせられた日の光に、ダンゴムシ御一行が身を丸くする。みんな同じとこに住んでるのね…ふーん…。

慈愛の精神をもってやってるつもりだし、飛ばないし、噛まないし、刺さないし、速くないし、毒もないけど、集合体でいるお前らはダメだ。

頼むから単体でいてくれ。集中しないでくれ。

 

名前があるのかないのかもわからない雑草の根っこの強さには感心する。雑草魂って言葉があるけど、本当にその通りなのだ。踏みつけて引きちぎるのは簡単だけど、根っこから引き抜くにはグッと力をこめる必要がある。しっかり踏ん張って全身でえいやっと運動しないと抜けないものもある。ぐったりと垂れた草を片手に「ハハハ、完全に駆逐してやったぜ」と某漫画の主人公を気取ってみるのだが、2つの季節を越えたあとに同じ場所を訪れると、そいつが再び復活していることもある。これが自然のチカラなのかと驚嘆し、その不屈さに恐れおののき、私はエレン・イエーガーごっこを再開する。

 

「ほい、おつかれさーん。」

草むしりが終わると、おじさんは私を飲み屋に連れて行ってくれる。

肉体労働後のビールは格別に美味い。授業が終わってからビールを飲むこともあるが、アルコールが全身を駆け巡る爽快さは、身体を動かしたときの方がはっきりとわかる。腹のすき具合もいつもより大きく、ダイエットをしているわけではないが、ついつい食べ過ぎてしまう。まあ体力使ったしいいか、と唐揚げを口に放り込み、パリッという音を小気味よく立てていく。

 

軍手を通り越して染みついた土のにおいが、箸を持つ指からほわんと漂ってくる。おしぼりで顔を拭くと少し茶色くなる。爪の隙間が黒くなっているのは、自然に触れた証だ。

 

「今日もありがとな。」

おじさんが財布から抜き身の10000円札を取り出し私に手渡す。昼間から夕方までの作業だから時給換算すると大体2000円だ。めちゃめちゃいい仕事である。ありがとうございますと頭を下げて、自分の財布にしまう。

 

「いやあしかし、成長速度めちゃめちゃ早いっすよね。人間が成長するのはめちゃめちゃ時間がかかるっていうのに。」

「そりゃそうさ。根っこがあんだけ長いんだ、人とは違うよ。」

「しっかり根を張って生きなきゃいけないってことかあ。」

「そういうこと。ま、それが一番難しいんだけどなあ。」

 

ぶっとい根を張って、力強く生きる。多様な声がうごめく雑踏の中で、どんなやつにぶつかられても完全敗北しない。弱弱しく白旗を上げない。サバイブし続ける。たかだが雑草なんだけど、されど雑草。私も同じ雑草であるならば、ちょっとくらい彼らを見習った生き方をしよう。強い克己心を持つのだ。酒が回った帰り道、ふらふらと歩きながらそんなことを思った。

 

強い克己心を持とう。

朝起きても気持ちは変わらなかった。私自身も少し成長したのかもしれない。

さて、今日はどんな旅にでようか。

サロンパスでも探しにゆこうか。

 


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【コロナ渦で失業したので、ライブ配信を毎日平均6時間やりまくってみた8ヶ月のこと】連載記事vol.7

初めから読みたい方はこちらから!

【連載記事vol.1】↓↓↓

takamichi-nariu.hatenablog.com

 

前回の【vol.6】はこちら!↓↓↓

takamichi-nariu.hatenablog.com

 

 

智絵里さんは配信で顔を出していなかった。

机の上には、ゆらりゆらりと炎を踊らせるキャンドル、かわいらしいアメジストクラスター、中央には「インスタライブで、タロット占いやります!!おうち時間を楽しんでくださいね!」と書かれた卓上メモが置いてある。ゆったりと流れるオルゴールのBGMが落ち着いた空間を際立たせている。

素敵な雰囲気の配信画面だったが、それよりも私は智絵里さんの顔を拝みたかった。プロフィール写真のお顔が画面の向こうで表情豊かに動いている。そんな様子を想像して虚しく心を躍らせるしかなかった。

智絵里さんのファンと見受けられるリスナーも何人か来ていた。声は発してくれるので、実質ラジオみたいなものである。ラジオDJにメッセージを読んでもらうような楽しみが智絵里さんの配信にはあった。低音の効いたキレのあるボイスは妙な安心感がある。

 

「これから近所の川まで散歩してきます。その川には鯉が泳いでいるんですが、彼らをずっと眺めてると、陰鬱な気持ちが少し癒されるんですよ。」

なんてことのないメンヘラコメントを打ち込んでいく。

「へえ、よかったねー。そのままもう鯉になっちゃいなー。」

相変わらず平坦な返事である。

「なんか冷たいじゃないですか。」

「そんなことないよー、鯉になっちゃえば楽じゃん。」

「まあ、あんなふうに生きたいなァって思う時はあるけど・・・。」

「成生くんさ、毎日相談聞いて、いろんな話に付き合って、ぶっちゃけしんどいんでしょ?」

 

バイト休業で収入もなく、Youtubeの登録者もなかなか伸びない。見返りのない相談ばかりして、先行きの見えない日々を過ごし続けるのは正直辛かった。

 

「たまには口パクパクさせて無になったほうがいいよ。いつも何か思いつめてたらつぶれちゃう。わかるでしょ?だから鯉になっちゃえって言ってんの。」

 

智絵里さんの例えはとてもユニークだった。そしてそれはとてもわかりやすく、そっけないながらも優しさがこもっていた。この人に自分の脆いところを見てほしい。この人が私を助けてくれる。この人にもっと頼りたい。こんな感情、自分でも気持ち悪いと思うほど智絵里さんに私はぞっこんだった。

 

「ありがとうございます!散歩してリフレッシュしたら、今日も配信始めようと思います!またお邪魔しますね!」

彼女のアドバイスも然りだが、むしろその声が聞けただけで私の心は救われていた。『THANK YOU』アイテム、その他小さなものをぽんぽんと投げて彼女の枠を後にする。

 

 「はーい、もう来なくていーよー。あ、アイテムありがとね。」

彼女の声が、今日も背中を押してくれる。

 

 

                              ***

 

 

「X」でまさかの再会を果たした。

24歳の頃に「キャラメルボックス俳優教室」という舞台俳優養成所に通っていたのだが、その同期生であるTも「X」で配信をしていたのである。

Tは1歳年上の女性で、同期の中でも数少ない同年代組だった。彼女は私より数か月前からライブ配信をしていたとのこと。出演舞台の宣伝ツールとして使用したのがきっかけらしい。ライバーランクはCランク。Cランクというのはライバーの最初の関門であり、ここを越えられるか越えられないかで人気度が計れる。ちなみに私はまだEランクであった。

 

「久しぶりじゃん!成生も始めたんだね!」

稽古で散々聞きまくった声。養成所を卒業して以来一度も会っていなかったから、懐かしさに心が上ずった。

 

「わああああ!めっちゃ久しぶり!元気だった?」

「元気だよー!っていうか成生、俳優辞めちゃったんでしょ?今はYoutuberやってるんだよね?」

「そうだよー!ぜひチャンネル登録してくれ!」

 

もはやラインでするべきコミュニケーションである。リスナーが多いので、リアルの知り合いがだらだらと喋り続けるのもよくないだろうなと思いつつ、ついつい長居してしまった。

ちなみに、初めて課金してアイテムを投げ込んだのは彼女の枠である。やはりリアルに勝る関係性はないと、アイテムエフェクトで画面を煌びやかにしながら思った。人との交流が少なくなってきてしまったこの状況下で、どんな形であれ知っている誰かと関われるというのは有り難かった。

友達の喜ぶ顔は、やはり嬉しいものである。

 

Tの他にも配信に勤しんでいる同期生を何人か発見した。

公演が延期され、最悪中止され、現状舞台役者として活動できない以上、いつか来る再開の時まで余念なく自身の宣伝をし続けるしかない。彼ら彼女らは精力的にライブ配信を行い、必死に自分を売り込んでいた。バイトが無くなった!とぎゃんぎゃん喚いてる私とは覚悟が全く違うのである。

彼らの配信に時折足を運びながら自身の配信を省みた。なかなか人が来ないと悲劇のヒーローのように演じているのは単なる逃げなのだ。私も彼らのように夢を追っている身だけど、そのためにやっていることは彼らの数分の1でしかなかったのだ。なんとなく長時間配信して、恋愛相談をして、流れでチャンネル登録を促す。自分がいる場所を広くするにはこれだけでは足りないのだ。

頭を使って、もっと必死にならなければならない。今は、アイテムがなかなか貰えないと、リスナーのせいにして自分を正当化しようとしているだけ。ただ恋愛相談に乗ってもらうだけなら、友人にだって出来る。誰でもいいわけじゃなく「私に」相談したい、そう思ってもらえなければ意味がない。来てくれる人を増やすために、何かしらの工夫を凝らす必要があるのではないか。

陳腐な内容で埋め尽くされた自身のYoutube動画を見ながら、今一度自分に問うてみるのだった。

 

【vol.8】に続く。


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禁酒令なんかクソ喰らえだ、魑魅魍魎と酒が飲みたいんじゃ。

変わり果てたこの街に、まだ寒さの残る風が吹き抜ける。今まで轟いていた、グラスをかちんと合わせる音はもうほとんど耳にしない。どんよりとした空気を感じながら吉祥寺駅のロータリーを抜け、飲食店が所狭しと点在する路地へと足を向かわせる。「ハーモニカ横丁」と書かれた赤と黄の派手な看板は、なんだか今日も寂しげだ。

酒が提供できなくなっただけでこんなにも世界は変わるのか。閉ざされたシャッターをそっと撫でると、ひんやりとした鉄の感触が胸の奥まで伝わった。ここは普段、20時から早朝5時まで営業していて、この界隈を明るく盛り上げてくれる人気店である。緊急事態宣言やまん延防止やなんやらで、その溌溂とした姿を今年は一度も見ていない。記憶の山脈を辿れないほど酒を流し込みまくった、連日のフィーバータイムは幻だったのだろうか。がらんどうになったこの路地は、端から端まで見渡せてしまう。

禁酒令が出され、もはやさまようことさえ意味をなさなくなったこの街は、魅力的な場所ではなくなってしまった。アニメに溺れるオタク産婦人科医、生命力だけが有り余ってる正体不明のジーサン、やたらめたら男に抱かれたがる変な女・・・魑魅魍魎が闊歩する、吉祥寺百鬼夜行が懐かしい。そのカオスな渦に飛び込める夜は、いつやってくるのだろう。家でちびちびと焼酎を舐めながら、思い出の中を駆けてゆく。

 

飲みたい、飲みたい、飲みたい、熱いパトスをほとばしらせることが出来ないもどかしさに飲兵衛は悶えている。「お前らが楽しげにやんややんやと酒を浴びるから、ウイルスのまん延が止まらないのだ。」言われても仕方ない、反論はしない。ただ、しかし、飲兵衛は、私は、飲みたいのだ。こんなクソみたいな世界を泳がされ、ストレスでボロボロになってる魂は、今こそ救済されるべきなのである。仕事がない、金がない、でも支出はあんまり変わらない、まさしく弱い者いじめである。勇姿と男気が皆無状態のジャイアンから、逃げたくなるときだってあるのである。

 

明ける夜を信じていつまでも待つか、無理やり夜を明けてみせるか。

そろそろ戦い始めてもいいだろう。
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