【不登校の小学生に、塾講師は何を教えるべきなのか。】

私が担当している小学生の生徒が不登校気味になっている。

いじめられているわけではないが、単純に人間関係が煩わしいというのが学校へ行きたくない理由らしい。学校へ行ってもつまらない。先生嫌いだしクラスメイトとも馬が合わない。完全個人主義で生きていきたいという少し変わった子である。
塾に通いつつ、チャレンジなどの自宅学習教材も取り入れたご家庭のため、学習環境は整っているようだ。実際その子の成績は悪くない。同級の子どもたちと比べて知識や思考力は頭一つ抜けている。

しかしそれだけでよいのだろうか。

机に向かって行うだけではない、学校教育の重要さを説かなくていいのだろうか。

 

20年前に小学生をやっていた純粋無垢の自分は、学校が好きだった。
イケイケなグループに属する子どもではなかったが、地味派手問わずクラス全員とそれなりにいい関係を築いていたように思う。好きな子がいて、仲良くできる友人がいて、絶妙な距離感を保った派手な奴がいて、可愛がってくれる図書室の先生がいて、充実した日々を過ごせていたと思う。もっとも、高学年になると受験勉強に明け暮れる日々を強要されたので、学校生活には安息を求めていただけなのかもしれないが。

小学校という集団組織から得られた経験は未だに役立っている。
自分の好きなように物事を進めれないし、じゃあ1人でやろうと思っても非力すぎて上手くいかないし、社会的な自分の価値は他人から決められてるんだと知ってしまったし、人間関係から派生する胸の痛みの味を覚えてしまったし・・・。

精神面も未熟で、非常に身勝手な人間たちに揉まれた社会で生きるというのは、なかなかハードなことかもしれない。足が速くないとマウントが取れない、勉強ができないとナメられる、たったこれだけのことで生活のしやすさが決められてしまう。こりゃ確かに生きづらい。
しかし皆、知らず知らずのうちにコミュニケーションジャングルを生き抜く術を身に着けていた。酸いも甘いも噛み分けていき、なんだかんだで少しずつ大人になっていった。振り返ってみれば大冒険だらけだった。


「だから君も大丈夫だよ!学校行ってみようぜ!」

「うん!」

とならないのが如何ともしがたい現状である。

「したくないことはしたくない、やりたいことをやる。興味がないことはしたくない。だから今日、宿題もやらなかった。」

最近、𠮟り方が分からない。ある種、自主性を持ちすぎていて勉強をやらせることがその子にとって正しいことなのかよく分からない。「宿題やらねえと次の宿題増やすから。」そう言ってもやってこないことがある。


「なんでやらなかった?いそがしかった?」
「べつにー。」

べつにーじゃねえよ。学校行かずに昼過ぎから塾へ自習来てるんだから、やる時間あるでしょうよ。せめて理由を述べろ、突拍子もない嘘でもついてみろ。火星人が家に攻めてきたとかなんでもいいから。

「本人の好きなようにやらせたい、でも学校は行かせたい、中学受験を視野に入れて。あっ、また宿題やってないみたい。もう!どうすればいいの先生。」

お母さん、どれを優先させればいいのです!!

先生だってすぐに解に辿り着けるわけじゃないんです!!

 

集団生活を送るうえでの勉強は、有効なコミュニケーションツールになったり、アイデンティティを示す武器になったりするけれど、その子の世界ではただの苦痛でしかないのかも。

我々の働く塾は個別指導ゆえ競争もないから、勉強量の基準にするものは学校の進度や受験校の難易度しかない。しかしながら、その子の学校の学習進度は分からない。お母さんが希望する中学校は高難度。
それを加味してカリキュラムを作成すると、週1回の授業しかない中で、こちらとしてはバリバリ問題をやらせるくらいしかないのである。もちろん面白味を感じてもらえるようにこちらも精一杯やってるつもりだが、「分かりあう」のは教材の設問よりはるかに頭を悩ませるプロブレムだ。(怒ってばかりでごめんね)

学校でわいわい勉強するのも楽しいもんだぞ。別に毎日行けとは言わん。だが、ちょっとくらいコミュニティと関わってみてもいいんじゃないか。どっぷり浸からなくていい、斜に構えてたっていい。すぐ逃げだしたりしなきゃそれでいい。逃げたくなったらきっと誰かが助けてくれる。もちろん自分から助けを求めたっていい。一緒に学校にいってはやれないが、俺も出来ることはしよう。

そんなこんなで本日も授業。
学校で学べることをどのように伝えていくかが、塾講師、いや、教育者としての課題である。

【コロナ渦で失業したので、「ライブ配信」を毎日平均6時間やりまくってみた8ヶ月のこと】vol.13

連載記事【vol.1】はこちら↓↓↓

 

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前回記事【vol.12】はこちら↓↓↓

 

takamichi-nariu.hatenablog.com

 

【コロナ渦で失業したので、「ライブ配信」を

毎日平均6時間やりまくってみた8ヶ月のこと】vol.13

 

「X、やめんといてな!」

黒い瞳を潤ませながら、ちゃん子は言った。

「成生いなくなったらめっちゃ寂しいやん!せっかく仲良くなったのに!」

「いなくならないように頑張るよ。」

「ホンマやで!Youtubeも応援してるしな!これからはムササビと一緒にやるんやろ?」

「うん。誰かと一緒にやることになるなんて、配信始めたころは思いもしなかったよ。」

「いやあ、しっかし、ホンマにすごい展開やなあ。尚更やめたらあかんやん!」

 

ムササビを仲間に引き入れるのは拍子抜けするほど簡単だった。

「やろうぜ!」「できるかな・・・」「できるよ!」「わかった!」

これだけのやり取りで彼の加入は決まった。SHIKIMIとムササビには私の配信で顔合わせ(アカウント合わせと言った方が適切なのかもしれないが)をしてもらい、漠然と互いを認知してもらった。

イケイケ系のギャルSHIKIMIと頼りなさげな優男ムササビの性格は全く正反対である。以外にもこれがいい化学反応を起こしていて、互いの凹凸を上手く補っているように見えた。生配信上裸女と引け腰のエースはので、SHIKIMIはこれは私としてはラッキーな組み合わせだ。似た者同士は気が合いやすいけれど、新しい企画を始める際には違う個性が集まっていた方がいい。異なる目線が多いほどあらゆる可能性に気が付ける。

 

我々はラインのビデオチャットにて今後の計画を立てることが多くなった。

 

「以前成生がYoutubeにアップした、『こんな女は嫌われる』をアレンジして撮影したいと思ってるんだけどどう?」

「うん、SHIKIMIが編集しやすいならそれでいこう。いいよね、ムササビ。」

「俺はなんでもいいぜ!」

オーケーと頷きながらSHIKIMIはメモを取っている。

「動画は演技がほとんどを占めた芝居形式になるんだよね。ってことは、俺とムササビのどちらかがメンヘラ女役をしなきゃいけない・・・?」

「その通り。ばっちりやって頂きます。」

ムササビの顔が少しひきつった。そしてまだ配役も決まっていないのに、まじかああああとクリーム色のソファーに倒れこんだ。蟻のような小さい声で「俺だよなあ」と呟いている。

「よろしく!」

「がんばって!」

ソファーから体を起こし、カメラに向き直った急造個性派俳優は「頑張ります。」と力なく応えた。よかった俺じゃなくて。彼の愛らしい撫で肩を見てホッとする。

私は腕を組みながら、今後のスケジュールについて話を進めた。

「で、問題はいつ撮影するかだ。俺たちは都内だからすぐ会えるけど、肝心のSHIKIMIは九州だしな。」

「あ、今週だったら金曜日からそっち行けるよー。みんなどうせ暇でしょ?」

「SHIKIMI、あんたの行動の速さには脱帽するよ。」

「ほんとほんと。」

「で、みんな行けるの?」

「俺は週末は基本引きこもってるから余裕で空いてるぜ!成生は?」

一旦テレビ画面を閉じスマホのカレンダーを確認した。今週の金曜日は5月29日だった。「X」継続か否かかの運命が決まる3日前である。

「空いてるんだけど、撮影終わったら終電あるうちにすぐ帰るね。例の日まで時間がなくて。打ち上げ参加できずすまん。」

「ああそれなら心配しないでいいよ。ホテル、2部屋取ろうと思ってたところだから。撮影して、終わったらちょっと休憩して、そのままそこで深夜配信しちゃいなよ。」

会社の経費で落とせるし、と付け足して悪戯っぽく笑った。

「何から何までありがとう。あなたは神だ。」

「いかにも。かたじけない。」

胡坐をかきながらムササビも深々と頭を下げる。

「地味に成生の枠に私のファン多いし。いいじゃん!コラボ配信していっぱいアイテム投げてもらお!私も投げるし。そしたらもう絶対安泰でしょ。」

そうなのだ、SHIKIMIにはファンが多い。というか彼女目当てでやってくるリスナーも多々いる。過激な下ネタをどかんどかんと投下して笑いをさらい、また羽振りもよく1000円以上のアイテムを鳩にパンくずをやるかのようにぽいぽいと投げていく。初見リスナーの恋愛相談にも積極的に参加してくれるので、彼女の存在は私の枠にとってかなり大きいものだった。

謎に包まれたタトゥーだらけの金持ち金髪ギャル。配信したのは上裸事件の1回きり。そんな彼女を仲間にできた自分はかなり運がいいのだと思う。

 

「じゃあ、当日の流れはあとでグループに流します!ごめん、仕事戻るわ。お先。」

SHIKIMIは一足早くビデオチャットから出て行った。時計を見ると時刻は23時を指しており、こんな時間まであいつもお疲れさまだなあと男2人でその場にいない人間を労わりあった。

「SHIKIMIって何者なんだろうな。」

ムササビがお茶のペットボトルを手に取りながら質問とも取れぬ発言をする。初めての出来事に緊張してきたのかゴクゴクゴクゴクお茶を飲んでいく。

「さあ。彫師・動画編集者ってこと以外はわからん。」

「だよなあ。出会ったことないよあんな人。時折こわくなる時あるもん。何も言えねえよ。」

「わかる。あいつが下ネタギャグで暴走して、その結果変なやつらがわらわら湧いてきても文句言えねえもん。配信をプロデュースしてもらった恩義もあるし。」

「え、なにそれ?」

 

実は、SHIKIMIが私の枠に来るようになってから爆発的にリスナーが増え、投げられるアイテムの平均額も高くなったのである。配信状況は驚くほど好調になり、6月1日までにはD+どころかCランク帯に飛び乗れそうなほどだった。今まで見てきた、閑古鳥の声が響き渡っている景色は全くと言っていいほど見なくなった。

これは彼女が夜な夜な説いてくれたアドバイスのおかげなのである。

彼女は私を人気ライバーにするために、いくつかの改善点を提示した。

 

【vol.14】に続く。

 

 

【エヴァンゲリオンLINEスタンプを送りたいのに、そもそもそんなに友達がいない悲愁と喜悦のジレンマ】

私は時折、ライブ配信アプリ「X」なる欲望にまみれた破廉恥な媒体を使い、苦い毒や苦い薬やただただ苦いだけの言葉を世界に向けて発信している。
そしてそのシステムの中には、ファミリーと呼ばれる配信者とリスナーが交流できるチャットスペースがあり、私自身もそれを猥談広場として日々利用している。

そして先日、その猥談広場で久しぶりに健全な話題が上った。
エヴァンゲリオン」である。

学研から発行されている「感情ことば選び辞典」がエヴァンゲリオンとコラボしており、その表紙に綾波レイが描かれていたので思わず買ってしまったという自己満足極まりない話をしたところ、意外にも盛り上がったのだった。

私のことを先生と女学生のごとくうやうやしく慕ってくださるリスナーSさんもエヴァが好きらしく、「ラインスタンプもありますよ!」と画像付きで教えてくれた。

 

「口の前に手を動かせ!」

「合点でいっ!」

「おめでとう」 

 

などの名台詞がエヴァ文字で書かれたスタンプだった。言葉の種類も豊富ゆえ様々なシチュエーションで使えそうだし、なによりエヴァだ。欲しい。だってエヴァなんだもん、問答無用で欲しい。


そして本当に貰っちゃったのである。
モノ好きな男性リスナーさんのひとり、Mさんから有難く頂戴してしまったのである。

Mさんはとある女性歌手さんのファンなのだが、実はこの歌手の方は、私がかつて音楽をやっていた時代にお世話になった師匠なのである。そういう繋がりもあって、我々はぷわぷわと交流を深めていったのであるが、こんな私に興味を持ち続けているとはやはりモノ好きな人である。

「ラインくれたらスタンププレゼントしますよー。」

「え、まじっすか。いただけるならほしいです。」

TwitterのDMでラインのQRコードを送ると、本当にスタンプが送られてきた。 
まさかのエヴァスタンプ全種類が送られてきた。


もはやお礼を言っても言い切れない。
画面の向こうと画面の中の両方で気味の悪い奇声をあげながら喜んだ。
嬉しさのあまり上昇気流に乗って大気圏を突破しそうになってる狂ったテンションに、Mさんたぶん引いてたと思う。

Mさんありがとう!じゃんじゃん使いまくりますぜ!はやる心を抑えきれずに、スタンプを送る相手を最新のトーク履歴から探した。


ロイター通信
LINE BLOG
LINE スタンプ
アサヒビール
LINE ショッピング
LINE NEWS
LINE マンガ
桜井日奈子
デイリースポーツ
サッカーダイジェスト
SOCCER KING
おとなサントリー
週刊女性PRIME
ソフトバンク
GU
ケンタッキーフライドチキン
吉野家
コカ・コーラ
妖怪ウォッチ
(以下省略)

トーク欄に羅列された「友達」の名前を見て愕然とした。
そして現実を悟った。


俺、送る相手がいねえ。

友人や知り合いから頻繁に連絡が来る明るい人気者ではないし、疎遠の知り合いにいきなりエヴァスタンプをぴょんと送りつけ、自慢しちゃうような寂しがり屋にもなりたくない。
だがしかし、「ほしいほしい」と欲念に身を任せ、それに広い心で応えてくれたMさんの優しさを踏みにじるような行為はしてはならない。誰かに送らなければならない。行き場を失ったスタンプたちを途方に暮れながら見つめた。
恨めしげに綾波レイがこちらを覗いてくる。アスカが軽蔑に満ちたゴミを見るような目を向けてくる。カオルくんが「君はかわいそうな子だね・・・。」と言っている気がする。

私は罪悪感に苛まれながら、ラインをそっと閉じた。

「まだ時は満ちてないんだよ・・・」
老若男女から人望を得て引っ張りだこになったら、毎晩誰かを誘えちゃうようなパーリーピーポーになったら、彼らは活き活きとした表情を多くの人に披露することが出来るのだろう。そんな日が来るかどうか保証は出来ないが、小さく夢だけは見ておこう。

せつなげに胸を張り、薄暗くなった夕方の風に髪をなびかせながら私はポケットからスマートフォンを取り出す。そしてフッと憂い気な微笑みを浮かべ、再びポケットへとアルミニウム合金の塊を戻す。背中を紅く焼きながら固い道を歩き出し、一匹狼を気取って遠くに見える気がする山に向かって吠えたつもりになった。


この文章は絶対にMさんに読まれてはならない。


 

 

 

 

【コロナ渦で失業したので、「ライブ配信」を毎日平均6時間やりまくってみた8ヶ月のこと】vol.12

 

連載記事【vol.1】はこちら!↓↓↓

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 前回記事【vol.11】はこちら!↓↓↓

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 【コロナ渦で失業したので、「ライブ配信」を毎日平均6時間やりまくってみた8ヶ月のこと】vol.12

 

『6月1日までにランクがD+にいかなかったら「X」』を引退します。』

同情を誘った卑しい発表の効果は抜群だった。

 

恋愛相談に乗った人たちが100円相当のアイテムを投げてくれるようになったのである。1発1発は大きかった。おかげでランクダウンせずにD-~D±帯を維持することが出来るようになった。

常連リスナーさんの協力も有難かった。毎晩毎晩来てくれるだけでも感謝なのに、私のランクメーターさえも毎回気にしてくれるようになったのだ。「あと〇〇ポイントくらいで今日はD±帯キープできるから今晩も一緒に頑張ろう!」と、新規リスナーを呼ぶためのタグ付けに協力してくれた。

「スクショの準備して!」と夜勤の合間を縫ってきてくれたT(【vol.】参照)に「花火」というアイテムを投げてもらったことがある。なんとこれは1000円もするのだ。色とりどりの花火エフェクトが画面という夜空を埋めつくす。

Tは感謝と驚きで口が半開きになったままの私を笑うと、「じゃ!時間ないからこれで!頑張って!」とすぐに仕事に戻っていった。彼女には養成時代にも飲み代をおごってもらったりと散々お世話になった。姉さん、めちゃめちゃ男前である。

 なんとかなりそうな空気が漂い始めていた。6月1日になった瞬間にD+になっていればいいのであるから、現状を保ちつつ1日前あたりから皆におねだりしまくればおそらく問題はない。
しかし油断は禁物である。上手くいかない時期を1ヶ月過ごしてきたからこそわかる。転落するのは本当に一瞬だ。今こそが正念場なのだ。
夕方に2時間半、深夜配信は早朝6時まで延ばし、新規リスナーと出会える機会を増やした。恋愛以外の人生相談も乗れるように、DaiGoさんの生放送視聴のほか自己啓発本をやみくもに読み漁った。本当はDaiGoさんがおすすめしていた本が欲しかったけれど、ニートのお財布事情では買えなかったので大体は古本屋で安く売られているようなもので済ませた。そしてそれらをノートにまとめて「オリジナル心理学ノート」を作り、対応力のスピード性を高めた。

時間は大量にある。むしろ私にはそれだけしかない。ほとんどの時間をライブ配信のために捧げ、引退を阻止するために追い上げをかけた。

 

【警告】配信を停止しました。不測の事態が起こる恐れがある配信(露出の多い衣装、化粧室での配信など)や、わいせつな内容は強制停止の対象になります。

 

「はい、勇者。」

SHIKIMIは運営から届いた通知のスクリーンショットを送ってきた。 

過剰に肌を露出したりすると運営からこのような通知が送られてくる。もちろん私は受け取ったことなどない。エロチシズムな発言や腰を前後に振るモーションは何度もしたが、さすがに服を脱いだことは無かった。

「おまえすごいな・・・。」

「でしょ。停止解けたら謝罪会見するわw」

若干引きつつも、その大胆な行動力には舌を巻いた。私の枠で「ナリの配信終わったら、私も配信始めるわ。そのとき服脱いでみるw」とコメントをしていたのだが、まさか本当にやるとは。

タトゥーが入った華奢な右腕を、着ているTシャツの内へ忍ばせ、もう片方の手でフライパンを持つ。いきなり乳首が見えないようフライパンで隠しながら、慎重に慎重に服を脱いでいく。へそを通り過ぎ、みぞおちが見え始めた。

「乳首見えてないよね!?乳首見えてないよね!?」

Tシャツで顔が覆われいるため状況が確認できないSHIKIMIが焦り始めた。これに対し、「まだ見えてないよ!」というコメントが殺到する。朝4時半にもかかわらず、20人ほどのリスナーが集まってきていた。いけ!いけ!とヤジも飛ぶ。といっても本人にはすべて見えていないのだが。

乳首を晒さずTシャツを脱ぐことに成功した彼女は、フライパンを置いて片手で胸を隠しながらストロング缶を飲み始めた。なんだこれは。どこからともなく集まってきたギャラリーから歓声を浴びながら、ドヤ顔で酒をゴクゴク飲んでいくその姿はとにかく異質だった。自分とは違う世界に住んでいる人だと思った。呆れながらも驚嘆という珍しい感情が心に出現するのを感じた。

ポロリ待ちの変態たちがのさばり始めたところで、脱衣配信は強制終了。画面はプツっと切り替わった。これはSHIKIMIの初配信でもある。ただ脱ぐためだけに配信した、伝説の女のとして私の記憶に深く刻まれたのだった。

 

SHIKIMIはYoutuberというタグに誘われてきてくれた、九州に住んでいるタトゥー彫師だった。目元ばっちりのド派手なメイクにほぼ白色の金髪、腕にがっつりとタトゥーの入った、ビジュアル系ガールズバンドっぽい見た目の24歳。こりゃまた癖が強そうなやつが現れたなあと思った。

「どんなYoutubeやってるんですか?」

「主に恋愛心理学を扱った動画を作ってます。性欲が強い男の特徴とかメンヘラ女子がモテる理由とか。」

「面白そうなコンテンツですね!人気ありそう!」

「いやいや。ここでは偉そうにYoutuberって名乗ってますけど、実際は再生回数が平均3桁代の底辺なんです。」

「そうなんですか!ちょっと今から見てきますね!」

今ですか!?と突っ込む間もなく彼女のアイコンは画面から消えた。

「あの人、たぶんマジで見に行っちゃったよ。」

他のリスナーさんたちに向かって呟く。どんな感想が返ってくるんだろう、厳しい批評だったらいやだなあ。大して勉強してない頃に作った動画ばかりだから内容もだいぶ浅いし。期待値高そうだったから落胆されたら辛いなあ。なんてうだうだ話をしていると10分ほどでSHIKIMIは戻ってきた。


「題材がよくて編集も工夫されてて面白かったです!」

第一声がそれだったので安心した。

「でも。」

「でも?」

一瞬の間。一気に不安になる。

「もっと時間を延ばせるし、もっと面白くできる。」

彼女は続けた。

「動画の中で、成生さんちょこちょこ演技入れてるじゃないですか。メンヘラ女子の真似してみたりとか。あれの尺を延ばすだけで内容もだいぶ濃くなるし、それだけで動画1本分いけますよ。」

動画の途中で、こんな男はやばい・こんな女はやばい、を分かりやすく表現するために1行の台詞のみの演技パートを取り入れていた。ブライアンさんのように一人芝居が上手ならまだしも、私にはそこまでの技術がない。編集で声質を変え背景を変え、アクセント程度なものに仕上げることしか出来なかった。

「確かに・・・。でも一人芝居できるほど技量がないんですよ。」

「じゃあ誰か一緒にやれる人いませんか?もしいそうなら教えてください。私、編集しますよ。」

「え?」

「東京には出張で月2回ほど行くので、タイミング合わせてくれれば撮影もやりますよ。」

「え?」

「実は彫る以外に某有名Youtuberの編集の仕事もしてるんで。」

「え?え?」

「この企画面白そうなんで私も1枚嚙みたいなあと。もしよければ、ですけど。」

 

胸が高鳴っていた。何か大きなことが始まる・・・!そんな予感がした。

ライブ配信でチーム誕生の瞬間を見れるなんて!」
「いい出会いじゃん!SHIKIMIちゃん、成生くんを頼んだ!」
「すげええええ!!!おおおおお!!!」

居合わせたリスナーの皆も興奮を隠せない。コメント欄が爆速で盛り上がっていく。

 

「いやいや!待って待って!もう1人見つけないと始められないから!」

彼らを落ち着かせながらも、自身の鼓動がどっくんどっくんと激しさを増していくのを感じていた。宣伝のつもりで始めたライブ配信でまさか仲間が増えるなんて。ドラマティックな展開を前にして今にも踊りだしたい気持ちに駆られた。

 

あと1人。あと1人集めればこのYoutubeプロジェクトはスタートできる。
実をいうと、この話が持ち上がった時点で、声をかける人物はもう決めていた。ライブ配信をきっかけに結成されたチームなのだから、もう1人も「X」で知り合った人にしたい。

きっと彼ならば素晴らしい作用をもたらしてくれるだろう。まだなにひとつ確定していないのに、私には明るい未来が見えていた。

 


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【コロナ渦で失業したので、ライブ配信を毎日平均6時間やりまくってみた8ヶ月のこと】連載記事vol.11

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シルバーさんは、金髪パーマがよく似合う、柔らかい関西弁が特徴の男性美容師ライバーだった。

缶ビールか白ワインを飲みながら、のんびりとコメントを読み上げていくマイペースな雰囲気が居心地良い。5月の初め頃から、だらだらと枠に入り浸るようになっていた。

 

シルバーさんの配信には特別なイベントがあった。みんな大好き大喜利大会である。普段は他愛もない雑談をぽろぽろとしているだけなのだが、リスナーが8人以上集まると、そこは大喜利会場に変わる。ホワイトボードを用意し、タブレット大喜利のお題を調べ始めるシルバーさん。回答権は1つのお題につき2回で、制限時間は10分弱。どんなお題が来るのかわくわくしながら、誰よりもイケてるコメントを残してやるぜと闘争心を燃やす。

顎を動かすと脳に酸素がゆき頭の回転が速くなるらしいので、出題を待っている間私は一生懸命ガムを噛みまくっていた。

 

「はい、じゃあいきますよー。」

マーカーを置き、ボードを裏向きに抱くシルバーさん。さぁ、いよいよだ。緊張の一瞬である。

 

『私、失敗しないので!と言っていた外科医が汗だくに。いったい何があった?』

 

くるっと表に返されたボードにはこう書いてあった。

お題を確認した我々は、考えを巡らせるため一旦沈黙し、画面にはニヤニヤしたシルバーさんの顔とホワイトボードが映し出される。回答権は1人2回までなので、慎重にコメントをしなければならない。あとからいい感じの回答を思いついたとしても、それは無効になってしまう。

 

「避妊に失敗した。」

「夏場なので、単純に暑い。」

「手術中、誰も汗を拭いてくれない。」

「間違えて内科の診療室に来てしまったものの、そのまま引き下がれなくなった。」

 

ぞくぞくと回答が出てくるが、大抵こういうのは一番初めに出されたものが強い。シルバーさんはゲラなのでずっと笑っているのだが、延々と最初の笑いを引きずっているので、印象に残るのはどうしても一撃目のものになってしまう。

進行役が面白いと言ってしまえばそれが正義になりやすい世界。Twitter大喜利と違って、少人数かつリアルタイム進行というのもあるのだろう。皆、「遅れを取った!」と焦りはじめ、微妙な回答が続いてしまうのも関係してくる。そしてその空気を打破したり、飲まれてしまったりといった攻防を繰り広げるのも、ライブ配信大喜利大会の醍醐味なのだ。

最優秀回答は、その場にいるリスナーの投票で決まり、選ばれると皆から賛辞賞賛のコメントが送られる。そしてそれを眺めながら、頬を緩ませじっくりと悦に浸る。おすすめの美容グッズがシルバーさんから送られる、ということもない。ただ少しばかりカッコよく見られるだけだ。

もちろんそれでも構わない。むしろ大きな名誉だ。あの人、クレバーだよね!と思われるだけで承認欲求は充分満たされる。 

 

ちなみに、私が最優秀回答賞を取ったものは、

お題:『木星でやると盛り上がる、面白い大喜利のお題とは?』

解答:『セーラームーンを主役から降板させる方法を教えてください。』

のたった1回のみである。

ああ、大喜利王への道は険しい。

 

 

                                      ***

 

 

配信を始めて1ヶ月ちょっと経っていた。

 

「彼氏に依存してほしいんですけど、どうしたらいいですか?」

「高校2年生男です。好きな人に上手くアプローチするにはどうすればいいですか?」

「旦那以外の男性を好きになってしまいました。不倫したいと思ってるんですけど、バレない方法ありますか?」

「3年間セフレ関係の男がいるんですが、彼氏と別れたんでその人と付き合いたいです。どうしたらいいですか?」

 

多種にわたる全てのお悩みにじっくり対応していたため、『枠主に自分のコメントを読み上げてもらい、どんなレスポンスが返ってくるのか楽しみに待つ』という、ライブ配信の基本的な楽しみ方を全員に提供できなくなってきていると徐々に感じ始めていた。

また、DaiGoさんの真似で始めた心理学講義も、「X」で求められているコミュニケーションとは程遠いやり方だった。聞きたい!ではなく、喋りたい!と思っている方々には合わない配信になってきていたと思う。「ああ今日も疲れたよー!」のような雑談コメントを打とうにも、私の解説が終わるまで待たなければならない。

それゆえ、相談に来てくれるご新規さんは多くなってきたけれど、常連リスナーさんは減ってしまった。千草ちゃんやユサちゃんの姿も以前のようには見なくなり、大抵1番乗りでやってくるムササビ(vol.9参照) と喋りながら誰かが来るのを待つということが多くなった。

 

「ムササビ、この状況かなりやばいよな。モチベーション下がっちまう。」

「うむ・・・。俺はこの枠の相談シーン好きなんだけどな。自ら解決策を考えないで、相談に来る人はただの怠け者ですって言い放った成生、カッコよかったぜ!笑」

「ありがとう。でも、なんか若干ショー化してきちゃってるよね。相談者に対して俺が言ってるのを他のみんな黙って聞いてる、みたいな。」

「ああ、確かに。テレビ見てる感覚に近いかも。画面の向こうでうんうん頷く感じ。」

「このアプリの楽しみ方じゃなくなってるよね。そりゃ常連も付きにくいわけだ。」

「成生のフォロワー数は増えてるんだけどね・・・。そういえばチャンネル登録者はどう?増えた?」

「ぼちぼちって感じかなあ。あとで登録します!って言っても、本当にしてくれてるかどうかは分らないし。」

「なるほどな・・・。やっぱりランクを気にして人気度高めるしかないのかなあ。」

 

ランク。「X」界における人気度の指標になるものである。 (vol.2参照)

そんなもの気にせずに恋愛相談とYoutubeの宣伝に勤しんでいたけれど、他の配信者はちゃんと気にしているようだ。400円相当のアイテムでリクエストにこたえるミュージシャンもいたし、ファミリーに入るのにも一定の視聴時間やアイテムの貢献度が必要とするモデル美女もいた。

各々様々な方法でアイテムを投げてもらい、それに付随してランクを上げようと奮闘している。実際、そのような人ほどランクは高いし配信も盛り上がっているのは紛れもない事実。「アイテム投げなくていいからチャンネル登録してくださーい」という売り文句で通し続けていたほぼ完全無料の我が枠は、ランクも盛り上がり度も芳しいとは言えないものだった。

彼の言うとおりである。人気度を高めないことにはきっと両方満たせない。かと言って、爽やかな青年にイメチェンし黄色い声援を浴びるのは無理があるし、知的で大衆を導くカリスマメンタリストになるにも実力が足りなさすぎる。もちろんWIKちゃんみたいに、どんな人にでもいい感じでコミュニケーションを取れる柔軟性も持ち合わせてはいない。ましてや、講義はやめたくないし恋愛相談も継続したいという我儘っぷり。しかし、「アイテムくれくれ。」と直接言いまくるのは抵抗がある。自分のことながら本当に面倒くさい。

 

そこで私は思いついてしまった。

「みんなが全然アイテム投げてくれないからランク上がりません。」というメッセージを暗に込めた、卑怯な声明を出してしまえばいいのだと。リスナーさんの罪悪感を利用した汚い手法だし、こんなことをしなければならないほど自分が落ちぶれているのを認めたくはなかったが、もうこれしかなかった。

まだ1か月ちょっとだけど、6時間以上の配信を毎日休まずやってきた。枠に来てくれたリスナーさんには、自分なりに真摯な態度で向き合ってきた。「気持ちが晴れました!」「ありがとう!」というコメントもたくさん頂いたけれど、結局言葉だけでは充足感が満たされなかったのだ。チャンネル登録をしてもらうだけじゃない、やはり配信には配信の報酬がある。ランクも【-、±、+】と細かい区分があって、私はずっとD-から変動しなかった。ランクメーターを見るたびに、自分の存在意義が分からなくなった。

 

『6月1日までにランクがD+に行かなかったら「X」を引退します。』

プロフィール欄に新しく記載する1文は、何度か書き直しをした。

配信辞めますではなく、引退しますと表現した自分は、狡い人間である。だけどそれでもいい、この先に夢のような明るい未来が待っているのなら。

 

【vol.12】へ続く。

 


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【海で拾った謎の緑マスクをつけて踊ったら、キャメロン・ディアスとキスできた話。】

人は、何かしらの仮面を被って生きているそうだ。
冷静沈着でスマートな振る舞いが魅力的な紳士の仮面、常時そよ風に髪を撫でられているような純美な乙女の仮面、犬や猫にとどまらずサバンナの獰猛な野獣にさえも好かれる心優しき聖人の仮面。多種の仮面を取捨選択しながら、我々は魑魅魍魎が闊歩する罠いっぱいの現代社会ラビリンスを生き抜いている。

 

私にも被りたい仮面がある。周りの目を気にせず自分の欲望を大っぴらにでき、開放的でいつでもどこでもハイになれちゃう仮面だ。隠すべき喜怒哀楽や、楽しく淫らに生きていきたいという人間的本質をすべてさらけ出したい。社会に適応するためにがんじがらめにされた我が身を、自由に解き放つ仮面が欲しい。

 

なりたい自分になれるファンタスティックな仮面。

そう、まさに 映画『マスク』のような。

 

スタンリーは気弱で地味な銀行マン。彼はヤクザの恋人である美女ティナに一目惚れする。しかしある晩、彼女に自身の残念な本来の姿を見られてしまい、ため息をつきながら橋の上で落ち込んでいた。その時、ふと海に目をやるとぷかぷか浮かんでいる人影を発見。助けようと急いで飛び込むが、それはゴミや海藻の塊だった。スタンリーはその塊の中に奇妙なマスクを見つけ、成り行きで自宅へ持って帰ることに。不思議な光を放つマスクに魅せられ、好奇心から装着してみると、突如竜巻が発生し、彼は緑色のマスクを被った明るいお調子者の怪人に変身。普段の姿とかけ離れた人格になった彼は、銀行のお金を盗んだりナイトクラブでティナと踊り狂ったりとやりたい放題。警察からもヤクザからも目を付けられる始末。はたして自分の望みを叶えてくれるマスクを持ったスタンリーの運命は・・・。

 

ああもう、ホントにこの映画大好き!!
超人的な能力は目を見張るものがあるが、それ以上に圧巻するべきは彼のポジティブさと社交性。

強引で下品なんだけどロマンチック。全員をハイテンションハッピーにしちゃうムードメイキング。老若男女が惚れる圧倒的なパーソナリティー

そりゃキャメロン・ディアスだって落ちるわな。当たり前だわな。

 

イケイケゴーゴー精神で突っ走り、「見切り発車もいまさら止まれねえんだよおおお」と勢いに任せてそのまま宇宙の果てまで行けちゃうような推進力を持つのは、至極困難である。
だからと言って、精神のリミッターを外すためにアルコールをがぼがぼと体内に取り入れてしまい、結果、自己満足の快楽追及に飲まれ他人に幸せな感情を抱かせられないのは本末転倒。「自分も皆も心の底から楽しむ空間を創造する」というのはなかなかにハードルが高いから、結局誰かが楽しくしてくれるのを待ってる。

だから怪人マスク(スタンリー)はすごい。絶対合コン得意でしょ。

 

あんなマスクがあれば最高なのに!と鑑賞するたび思う。

しかし外した後の賢者タイムで一気に死にそうになるんだろうなとも思う。

ひどい頭痛で目が覚めてスマホを確認すると、知らない女の子の腰に手をまわしてひどい阿呆ヅラををさらけ出している猥褻な写真が出てきたり、部屋に脱ぎ捨てられた服から謎の甘ったるい香りがしたりして「ああ・・・。」と自身の軽率すぎる愚挙に身をもだえさせるに違いない。これは過去に何度かやらかしてる。

まぁ、それはともかくとして、映画『マスク』は男のロマンが詰まった最高の作品だ。

 

私も橋の上で美女とキスをして、朝焼けに向かって「キメたぜ!」とドヤ顔で言い放ちたい。

 

マスク [WB COLLECTION][AmazonDVDコレクション] [DVD]

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  • 発売日: 2018/01/17
  • メディア: DVD
 

 

サーフィンしてたらサメに襲われて大量出血。小さな岩場に追い詰められた絶体絶命の危機のこと。

小さな港のベンチや海が見える街道はいよね。ゆっくり沖を進んでいく船を遠目に、反射する光を浴びて目を細めたい。潮風を体いっぱいに感じながら、どこかノスタルジックな感傷に浸りたい。開放的な夏の色、メランコリックな冬の色、様々な景色を見せてくれる海はウルトラ級にエモい。ずっと眺めていたくなる。本田翼と浜辺に出かけて、小さな貝殻に1つずつ絵をかいて思い出を砂に埋めてゆくのもいいよね。

 

でも海と関わるのはそこまで。それ以上は絶対しない。

足の届かない場所まで行って、浮き輪でぷかぷかくつろぐこともない。ボンベをしょって色とりどりの小魚たちを見に行くこともない。サーフボードに乗ってばしゃばしゃと水をかき、白くごうごうと向かってくる波に立ち向かい、ましてやそれに乗るなんてもってのほかである

 

『ロスト・バケーション』

この映画は私の克己心を驚くほど加速させた。

 

休暇中の医学生ナンシーは、亡き母が教えてくれた美しいビーチを訪れサーフィンを楽しんでいた。だが、突如現れた一匹の巨大なホホジロザメに襲われ左脚を負傷。命からがら小さな岩場へたどり着いたものの、ここも満潮になれば海水で覆われてしまう。ナンシーの周りを回遊し続けるホホジロザメ。岸までは200メートル。果たしてナンシーは生きて帰ることが出来るのか・・・。

という、いかにもサメ映画らしいお話。(ま、サメ映画なんだけど)

 

他のサメ映画とは一線を画す、圧倒的な絶望感が売りのこの映画。深くえぐられた脚からどくどくと出血し、照りつける日差しにゆっくりと体力を削られ、回遊するサメの恐怖におびえながら刻一刻と満潮の時を待つ。

あああああ、こんなん精神的におかしくなるう。

 

映画だからいいけれども、実際海の中でサメに襲われちゃったら一巻の終わりだよね。スピード・パワー・感覚器官で完全に劣るのだから、ぶっちゃけかなりの無理ゲー。やっぱり海の中はアウェーすぎるよ。

サメ被害が主に多いのはアメリカとオーストラリア。2020年には全世界で約70件ものシャークアタックがあった。そしてその際の行動で、全体の約60%がサーフィンなどのボードスポーツだったそう。

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水しぶきを飛ばして興味を引いてしまったり、サーフボードに腹ばいで乗っている姿をウミガメと間違えられることが原因。ちゃうねん、あんたの好物じゃないねん!と言っても、噛まれて出血してしまえばアウトだ。サメの味覚には合わないらしいけど、ガブッ脚だけでも食われたら命に関わる。

日本でサメに襲われる確率は低いと言われているが、それでも稀に出没する。ホホジロザメオオメジロザメ、イタチザメこの3種が特に狂暴なので注意らしい。

って言ってもあんまりサメの種類分らないから、とにかく見かけたらすぐ逃げましょ。

というか、そういう区域に行かないようにしましょ。もはや海に入らんときましょ。

ま、某B級映画みたくサメが空から降ってきたりしたら、チェーンソー持って戦わざるを得ないけど。

 

『ロスト・バケーション』

海の美しさとサメの恐怖を感じられる大変お得な映画です。

サーフィンが好きな方、海が好きな方、サメが好きな方、医者の方、医者志望の方、サメ映画が好きな方、グロいシーンが平気な方好きな方、サメの皆様、ご鑑賞してみてはいかが?

 

ロスト・バケーション (字幕版)

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  • 発売日: 2016/10/26
  • メディア: Prime Video
 

 

※某サメが空から降ってくる映画

シャークネード(吹替版)

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  • 発売日: 2018/12/14
  • メディア: Prime Video